ファッションヤンキーちゃんのVRMMO記

プロローグ

第1話 プロローグ

 一学期最後の日、私こと花坂遥は燦燦と照り付ける太陽の中、友人とともに帰路につき他愛もない話を繰り広げていた。


「でよぅ!ハルルン、AFWは手に入ったのかな!?」

「うっさい手に入っとらんわ。分かっとる癖に言わんといてよ。」

「あはー、ごめんごめん。いや本当にごめんなさい睨まないで怖い。」


 ……我が友人小枝美影よ。私の陰に隠れて日光から逃げるな、ズルいぞ!そして私は睨んでいない。いや、イラっとは来たけど流石に睨んでないよ?

 しかしまぁ、イラっとした私を咎められるものはいるであろうか、いやいないでしょう。何故なら彼女は所謂勝ち組だからだ。

 美影は話題VRゲーム、Another fantastic world。通称AFWを手に入れ、発売日である昨日からプレイしているのである。

 初版は店頭に並ぶことはなく、全てネット抽選にて購入者が決まり、彼女はその権利を勝ち取った。

 もちろん私だって応募したさ。あらゆるサイト全て落ちたけどな!ついでに雑誌の懸賞にも応募したさ!ものの見事に落選したね。話題の人気作に当選者1名だから仕方ないと言えばそうなんだけどさ。そんなわけで敗北者な私は美影の楽しそうなAFW体験記を聞くことになっていたのだ。


「それじゃね、遥!私はレッツエンジョイするから!」

「あーそー精々楽しみんさい。」


 お互い手を振って別れ隣同士のそれぞれの家へと帰宅する。

 はーもう、聞けば聞くほど羨ましいったらありゃしない。私だってさ?AFWプレイしてさ?やりたいことがあるんだけどなぁ……大人しく第二販待つしかないか。


「ただいまー。」

「お帰りー。遥ぁそこにあなた宛ての小包置いてあるわよー?」


 小包?母の声に辺りを見渡してみると……あ、本当にある。えっと週刊少年カリバーゲームプレゼント係……ん?んん?


「んんんんんんんんんんんんんんんん!?」


 まさかまさかまさか!

 私は小包を抱え自室へと駆けこむ。後ろから母の声が聞こえるが何のその私にゃあ関係ないね!その場で封を開けなかった私を讃えろ人類!

 そして自室にて開封の儀!乱暴にビリっと!

 紙!そして幾度となくウェブページで見たAnother fantastic worldのパッケージぁ!正直早速プレイしたいところだけど逸る心を抑えて紙を読む。何々?


(花坂遥様。この度は週刊少年カリバーお楽しみ抽選にご応募いただきありがとうございます。抽選の結果、花坂様にAnother fantastic worldが当選いたしました。こちらの景品はAnother fantastic worldの発売日当日に届いていることかと思います。是非お楽しみください。)


「当日に届いてないんじゃけど……?」


 昨日も家に母はいたはずだから受け取れなかったわけではないと思うんだけど。もしかして配達トラブルでもあったかな?いや、邪推しても仕方ないか。今はそれよりもAFWを!

 私はAFWのパッケージからプレイカードを取り出しVRヘッドギアに読み込ませる。少し待ったところでダウンロードが終了したのか、ヘッドギアが緑色に発光。そしてそのまま装着し起動させる。

 そうすることで私の意識はAFWの中へと落ちていくのであった。



 気付いたときには私は宇宙のような真っ黒の中に小さな光が散りばめられた空間に立っていた。

 この演出は新しいなー。大抵のVRゲームは開始時は運動場だったり、草原だったりするんだけど。おや、光のうちの一つがこっちに来たね。光は私の目の前で静止すると次第に形を変え小さな人間、この場合は妖精かな?まぁそれに変貌した。


「いらっしゃい。ここは君たちの世界とアラザイアの狭間の空間。私は管理AIチーム"ビルド"が1柱のクギと言うものだ。よろしくー君の名前は?あ、アラザイアで暮らしていく上の名前ね。本名はダメだよー情報社会は怖いからね。」

「私は……オウカ。」

「よし、じゃあ早速だけどキャラメイクいってみよか。まずは種族だ。」


 クギはにこやかに手を振り上げるとそれに応じて、4人の別の"私"が目の前に現れた。色々と違うところがあるが、初期服は一緒だね。

 1人目の私は何の変哲もないそのまんまの私。2人目の私は耳が尖った私。3人目の私は頭に何か……あ、これ犬耳か。4人目の私は他の私と違って子供では?と思うほど小さい。ってかまんま子供のころの私だ。

 確か事前情報によると選べる種族はヒューマ・エルフ・ビースト・ドワーフだったね。それぞれに長所と短所があるなかで私が選んだのはヒューマだ。他の種族はなんというか、私のやりたいことに合わないかな。


「オッケ、ヒューマだね。どこか弄りたいところはあるかな?」


 種族を選んだ次は、クギの言う通り細かなキャラメイクだ。と言っても私はあまり弄るろうと思っているところはない。強いて言うならもうちょっと目つきを鋭くさせよう。いや、普段も鋭いけどさ。


「あ、終わった?……待ってごめん睨まないで大きい存在に見下ろされ睨まれるの結構怖い。」

「睨んでないんじゃけど!?」

「いや、絶対睨んでるっていうかそういうキャラメイクしたんじゃん。いいけど再度キャラメイクしたいとなったら君達の言うところの課金をしてもらうよ?もしくはリセットという名の人生やり直し。」

「リセットする人いるの?」

「残念なことにこれがいるんだよねー」


 サービス開始から1日でリセマラする人いるのか。いや、リセマラ要素あるのか知らないけど。

 しかし私には関係のないことだ。さて、次の項目は初期武器か。これは思った以上に種類があるねぇ。剣に杖に弓に槌にナイフに盾……おぉ昆まであるの?三節根ではないか。じゃ私の探し求める武器はっと。武器は?あれ?


「クギー。木刀は?」

「無いよそんなもの。」

「何でなん!」

「初期武器に選ばれなかったからだよ?」


 裏を返せば初期武器に選ばれなかっただけでアラザイアには存在するんですね分かります。

 ただなぁ……木刀で始めるつもりが出鼻挫かれちゃったな、しょうがない。妥協案としてメリケンサックにしよ。装着して軽くシャドーボクシング。あぁでもまぁこれも悪くないか。


「ねぇオウカ。参考までに聞きたいんだけどさ、君は何を目指しているのかな?目つき悪くて背高くて木刀持つつもりってそんな不良みたいなさ。」

「そだよ?私ヤンキープレイしたいんよ。」


 私は昔から同年齢の子供と比べて背が高かった。挙句の果てにこの目つきのせいで初対面の子からはそれはもう恐れられた。先生も不意に声を掛けたらビビっていたなー。

 広島にいたころはそれだけだったんだけどね?都会に引っ越してからは、長身と目つきに加えて広島弁よ。最近では広島弁も可愛いーみたいな話があるから前面に押し出してやろうかなと思ったらもっと恐れられたよ!今は皆慣れたけど最初はその筋の者かと思ったなんて言われたよ。ただの一般家庭じゃい!

 でもさ、ふと思ったのよ。じゃあ私が本当にヤンキーになったらどうなるんだろと。とはいえ現実でやったらみんなに迷惑がかかる――ということでAFWということさ。


「冗談じゃ無さそうだね。うん、いいんじゃないかな。私はそれを止めるつもりはないよ。さ、次は特化させたいステータスを決めてね。HP・MP・ATK・INT・DEF・DEXから1~2つ選んでね。もしくは選ばずにと言うのもありだよ。その場合は平均的に育つよ。」

「HPとATKで。」


 私が目指すヤンキー像は、昔の漫画によく見た義理と人情にあふれたヤンキーだ。小手先をせず力でねじ伏せる。そんなヤンキーに私はなってみたい。DEFじゃなくてHPを選んだのはタフって感じで良さそうだったからだよ?


「うん、以上でキャラメイクは終了だ。この後は簡単な戦闘チュートリアルだ。オウカ、君は君のヤンキー道を歩みたまえ!私たちビルドは君たちの活躍をしっかり見ているよ!」

「ありがとう、クギ。私、立派なヤンキーになる!」


 立派なヤンキーって知らんけど!

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