絵師転生

昨咲く

第1話 プロローグのはじまり

彼女が亡くなり、その死は少なくない影響を決して長くもない期間に置いて世間を騒がした。


常軌を逸した労働時間と薄利による生活水準の低下。

 それらが彼女の心身に多大なる負荷を与え、ついには過労死へと追いやったのだ。

その事はニュースやSNSなどでも取り立てられ、彼女を死へと駆り立てた会社は必要以上に責め立てられ、営業停止に追い込まれた。


それを機に労働環境の健全化だ、給与体制の改善だ、と尚も彼女とは関係のない他人が騒ぎ、特に大した変革も起きず彼女の死は世間から忘れられていったーー。


しかし彼女からすれば、自分で望んで行なった結果であり、むしろ自分の所為で自分を取り立ててくれた会社が営業停止にまで追い込まれてしまったことの方が、ひどく悲しいことだと感じたであろう。


イラストレーターとして、なんとか生活出来るだけの稼ぎと、描くという好きな事をし続けられる環境。それだけで彼女は死ぬまで満足だと、本当にそう思っていたのだから。


それに--。

と彼女は後に思う。

その世界では死んでしまったが、異なる世界で彼女はまだ生きていたのだから--。

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