第41話待ち続ける者
それから、家に戻っていつも通り過ごした。父親との仲は改善されたが、もともとあまり口数の多くない僕らは特に何も喋らないまま食事を終えた。
それから風呂に入り床に就く。いつも通りだ。いつも通りじゃないといえば、僕の心だ。
不安なことが多すぎる。菜乃花の手術のこと。もうすぐ菜乃花がいなくなってしまうなんて、覚悟していたことじゃないか……。
それを覚悟の上で、僕は菜乃花と一緒にい続けた。それでもやっぱり信じたくなくて、でも現実は変わらなくて……。
でも手術という希望が残っていた。もしかしたら、この先も菜乃花と一緒に道を進めるかもしれない。
菜乃花の隣を、歩き続けられるかもしれない。そんな希望的観測をする。
いつもネガティブな僕にしては珍しいと、我ながら思う。いつもの僕だったら、こういう時は悪い方を想像する。
でも今日の僕はしない。いや……しないという言い方はすこい違う。出来ない。
そんな想像をしてしまうだけで、頭がどうにかなりそうになる。だから出来るだけ最高に、都合のいいように考える。
そうでもしないと、本当におかしくなる……。
結局一睡もできないまま、朝を迎える。眠い目をこすりながら、菜乃花の家に行く支度をする。
と言っても、まだ菜乃花の家に行くには早すぎる。何かして時間を潰さなくてはならない。
一睡もしていない、気だるい体を無理やり起こすと、僕は部屋の隅っこに置かれている鞄から手のつけられていない宿題を取り出す。
夏休みはもう半分も残されていないというのに、全く手のつけていない宿題。僕はそれを机に置くと、早速宿題を始める。
手始めに数学のプリントを取り出す。しかし、一向に進まない。眠っていない脳みそはほとんど機能せず、うまいこと計算ができない。
頭を使う科目はだめだ。もっと頭を使わない、脳死でできる科目をしよう。そう思って鞄を漁るが、そんなものはなかった。
仕方ない……。僕は一番頭の使わなさそうな世界史のプリントを取り出すと、それと向かい合った。
しかし、全く持っているペンは進まない。頭の引き出しをいくら引きあけようと、一向に答えが出てこない。
プリントとにらめっこをしたまま、かれこれ2時間ほどが経っていた。もう家を出よう。
まだ10時を少し過ぎた時間で、菜乃花の家に行くには早すぎる時間だがそれでも行くことにした。
もしかしたら会えないかもしれない……。でも、会えると信じて、僕は家を出て行った。
菜乃花の家に着くと、案の定車はなかった。菜乃花は今、手術をしているのだろうか?
病気と闘っているのだろうか……?
僕はただ信じて待つことしかできないけど、きっと彼女なら……。
菜乃花の家の前で体育座りをしながら、僕はひたすら彼女がもう一度この家に帰ってくるのを待ち続けた。
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