第23話ふとした瞬間

 そんな他愛のない会話をしている時。

 あぁ、好きだなぁっと思わずにはいられなかった。

 さっきしっかりと言えなかったけど、心の中だったら迷わず思える。

 僕は世界の誰よりも菜乃花のことが好きだって、ハッキリと思える。

 ただそれを口にするのはすごく恥ずかしかった。

 だから今は心の中で、来たるべき時が来るまでは口に出さない。

 僕は菜乃花の家にきてからどのぐらい時間が経ったのかと気になり、ちらりと腕時計を見ると、時間は午後9時20分だった。

 

「えぇ!」


 時計を見た瞬間、僕は思わず大きな声を出してしまい、隣にいた菜乃花がビクッと背筋を伸ばしていた。

 僕はそんな状態の菜乃花に一言ごめんと軽く謝ると、すぐに布団から飛び出した。

 

「ごめん、そろそろ家に帰らないといけないから」


 そう言い残して、すぐに帰ろうとした僕を。


「待って!」


 と、ベッドに座っていた菜乃花が呼び止めた。


「明日は午後5時には家にいると思うから」

 

 そう教えてくれた菜乃花に、僕は首だけ向けて


「絶対来るから」


 と言いながら、バタンとドアを閉めて勢いよく階段を駆け下りた。

 すぐに靴を履き、僕は急いで家に向かう。

 家族揃って食事をする。

 我が家の昔っから変わらないルールだ。

 多分今でもテーブルの前で、父親と母親が待っていることだろう。

 待っているとしたら、我が家ではいつも7時に食事をするので、もうかれこれ2時間も僕を待っていることになっている。

 そんなに待たせたら、あの父親に何を言われるかわかったもんじゃない。

 でももう2時間も経っているんだ……。

 もしかしたら先に食事を済ませてるんじゃないか?

 そんなことを思いながら、僕ははぁはぁと息を切らしながら家の中に入った。

 家に入るととても静かで、料理の匂いなどはしなかった。

 多分先に食べているんだろう。

 そう思い込み、いざ居間に行ってみると、冷めきった料理の並べられたテーブルの前に、父親と母親が座っていた。

 僕が居間のドアを開けると、それに気がついた母親が。


「冷めちゃったし、温めなおしましょうか」


 と言って、から揚げの入った皿を電子レンジの中に入れて温め始めた。

 そして父親の方を見ると、持っていた新聞から一瞬目を離して、ちらっと僕の方を見た後に、また新聞に目を向けなおしていた。

 チンと電子レンジの温めが終わった音がすると、温まったから揚げの皿を母親がテーブルの上に置いた。

 そして父親と母親がいただきますと言い食事に手をつけ始めたので、僕もそれに合わせるようにいただきますと言い食事を始める。

 それから父親はすぐに自分のご飯を食べ終え、台所に持っていき、自室の三階へと上がっていった。

 僕もそれに続くように食器を台所の流しにおくと、一階にある風呂場へと行く。

 服を脱ぎ、体を洗い、湯船にためてあったぬるま湯に浸かりながら僕は。


「『夢を目指して』……か」


 っと、今日菜乃花に読ませてもらった小説の題名をつぶやき、将来のことについて考えていた。



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