第15話彼女の父親

 そしてその話を終えた瞬間に、ドアが誰かにトントンと叩かれた。


「菜乃花、入るよ」


「うん」


 そしてドアノブがガチャリと音を鳴らすと、僕よりも少し背の高めのメガネをかけた、優しそうな雰囲気のおじさんが入ってきた。

 多分菜乃花の父親だろう。

 そしてその菜乃花の父親らしき人物は、僕の姿を見るなり目を見開いて驚いた表情になっていた。

 年頃の、しかも今までほとんど家から出ることのできなかった自分の娘が、こんな雨の日に突然部屋に男を連れ込んでいたんだ。

 誰だってそういう反応をする。

 僕はその男性と目が合うと、軽く会釈えしゃくする。

 するとその男性は、菜乃花の方を向いて。


「お友達かい?」


 優しく問いかけた。

 すると菜乃花は、僕と男性の両方を向いて。


「紹介するね。こちら私のお友達の熊谷翔太くん。それでこっちが私のお父さん」


 っと嬉しそうに紹介してくれた。

 僕は改めて菜乃花の父親の方を向くと。


「初めまして。菜乃花の友達の熊谷翔太です」

 

 面と向かって自己紹介などしたことがない僕は、どんなことを言えばいいか分からず変な自己紹介をする。

 これで合っているのか。

 僕はなれない自己紹介に、不安になっていた。

 そんな僕の自己紹介を聞いた菜乃花の父親は、にっこりと笑いながら。


「初めまして。菜乃花の父親の斎藤健二けんじです」

 

 僕と同じような文章の自己紹介をしてきた。

 これは不安そうな僕の様子を察して似たような自己紹介をしてくれたのか、はたまた面と向かって自己紹介をするときは、これが正しい言い方のなのだろうか。

 

「じゃあ僕は行くよ。菜乃花、着替えはここに置いておくね」


 そういってベッドの横に菜乃花の寝間着を置いていくと、菜乃花の父親は部屋から出て行ってしまった。

 僕はドアの方を見ながら。


「優しいお父さんだね」


 そういうと菜乃花は少し笑みを浮かべながら。


「うん。小さい時からずっと一人で私のことをここまで育ててくれたんだもん。悪い人なわけないよ」


 菜乃花のその言葉に僕は、少し引っかかるところがあった。

 一人?

 母親はいないのか?

 そんなことを疑問に思った。

 でもこれは多分聞いちゃいけないことだ。

 触れてダメなことだ。

 そう思い、気になる気持ちを抑えながら、僕は無理やり他のことを考えようとする。

 そんな僕の様子を見た菜乃花は、僕の心を見透かしたように。


「今、私のお母さんのことが気になってるでしょ」


 僕は心の中を見透かされた気がして、ビクッと背筋を伸ばす。

 ここはなんていうべきなんだ?

 そんなことないよって嘘をつくのがいいのか。

 でもそんな嘘を言ったところで、簡単にバレる気がする。

 菜乃花には僕の考えていることなんて、全てお見通しなんではないかと思ってしまう。

 僕は菜乃花の方を向くと、少し気まずそうに。


「うん。菜乃花のお母さんのこと考えてた」


 素直にそういうと、菜乃花は少し寂しそうな表情になりながらも。


「じゃあ、私もあんまり知らないお母さんの話を今からするね」


 そう言って、いつもより少し声のトーンが低くなりながらも菜乃花は話し出した。







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