第9話会話

 次の日の夕方。

 時間にして午後4時30分。

 僕は昨日と同じように、あの橋へ向かっている。

 今日は来てくれるだろうか?

 もし来ていたら何を話そうか。

 そんなことを考えながら、僕は橋へ向かう。

 橋が見える距離まで行くと、一人の少女が橋の欄干に肘を乗っけていた。

 白いワンピースに小麦色の麦わら帽子。

 そしてその麦わら帽子にはおさまりきらないほどの、長くて綺麗な髪の毛。

 僕はその後ろ姿だけで、菜乃花なのだとわかった。

 心臓の鼓動が早くなるのを感じ、気がつけば僕は走り出していた。

 そして菜乃花の元に着くと、僕も菜乃花と同じように橋の欄干に手をつけた。

 菜乃花は走ってきた僕の方を見ると、風に揺らされる麦わら帽子を抑えながら。

 

「待ってたよ」

 

 落ち着いた様子で、そういった。

 僕は息を整え大きく深呼吸をすると、菜乃花の方を向いて、ごめんと笑いながら一言謝った。

 それから僕たちは色々なことを話した。

 お互いの年齢や趣味、他にも色々なことを話し合った。

 人と話すのが苦手な僕が、こんなにも他人と話せるなんて自分でも驚いている。

 それほど菜乃花との会話は楽しかったし、充実していた……。

 気づけば僕たちは、お互いに名前で呼ぶほど仲良くなっていた。

 そして、適当に雑談していると、一日の終わりを告げる5時のチャイムが鳴り出した。

 そこで僕たちの会話は一旦止められてしまい、少しの間沈黙が続いた。

 その沈黙の間、僕は菜乃花の方を見ると、菜乃花は悲しそうな表情で夕焼け空の方を見ていた。


「嫌だなーこの音」


 チャイムの音が鳴り響く中、菜乃花は独り言のようにポツリとそう言った。

 そして菜乃花がそういった後に、5時のチャイムは聞こえなくなった。

 僕はどうしてこの音が嫌なのか菜乃花に聞こうとしたら、菜乃花はくるりと後ろを向いて、首を横に向けた。


「もう行くね」


 一言そう言い残して、菜乃花はスタスタと帰っていってしまった。

 また昨日と同じ時間に……。

 もしかしたら5時になると習い事などがあるのかもしれない。

 明日また聞いてみよう。

 ポジティブに考えながら、僕も菜乃花の反対側を向くと家に向かった。

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