第7話斎藤菜乃花

 少女を見た僕は、また少女が昨日の言葉通りに来てくれたという安堵と、これから少女と何を話そうかという高揚感を感じていた。

 しかし、これから何を話せばいいんだ?

 昨日散々頭の中で、この少女との会話をシミュレーションしていたが、いざその場になると何を話せばいいのかわからなくなる。

 今日は天気がいいですねとか、そんなありきたりなことを言ったりしたら、つまらない奴と思われてしまうのではないか。

 そんなことを考え始めてしまうと、僕は怖くて少女に話しかけることができずにいた。

 少女と話したいけど話すのが怖い。

 こんなもどかしい気持ちになりながら僕は、チラチラと少女の方を向いて様子を伺うことしかできなかった。

 そんな沈黙の中、先に話し始めたのは少女の方で、少女は。


「斉藤菜乃花なのか


 っと、いきなり誰かもよくわからない名前を言ってきた。

 いきなり話し始めるので僕が驚いていると、その少女は続けて。


「昨日の君の質問の返答だよ」


 と、ニコッと口角を上げながら言った。

 昨日の質問の返答?

 そういえば僕は、この少女に名前を尋ねたがスルーされていたことを思い出した。

 ということは、この少女の名前は斉藤菜乃花ということだろう。

 僕はここで会話が途切れないように、無理やり話を繋げるようにした。


「素敵な名前ですね」


 そう言って会話を続ける。

 すると斉藤菜乃花は満遍の笑みで、僕の方を向いて。


「でしょ!」


 嬉しそうに言ってきた。

 その表情を見て、僕はドキッとしてしまう。

 どうしてこんなにドキドキしているのか、自分でもわからなかった。

 この少女の容姿がとても綺麗ということもあるが、それだけでは説明にならない。

 ただわかるのは、僕はこの少女にとても惹かれているということだ。

 18年間生きてきたが、こんな感情になったのは初めてだ。

 もしかしたら、これが恋というやつなのかもしれない。

 もっと一緒に居たい。

 もっと話をしたい。

 僕は少女ともっと会話の続きをしようと思ったが、そこでちょうど5時のチャイムが鳴り響いた。

 1日の終了を合図するこのチャイムがいつもは心地よく聞こえるのに、今日はすごくうるさく感じる。

 僕と少女の会話を邪魔するこの音に、僕は怒りを感じていた。

 そして5時のチャイムが鳴りやもうとした時ぐらいに、少女はぐいっと手を上にあげてリラックスをした。

 

「もう行くね」


 そして少女は、僕の方を向いてそう言った。

 もう行く?

 まだ会ってから1分ほどしか経ってないのに。

 もっと話をしたい。

 しかし僕がそう思っても、少女はどんどんと先に進んでいってしまった。

 そして少女は曲がり角を曲がって、僕の視界からいなくなってしまった。

 もしかしたら明日はこの橋に少女は来ないかもしれない。

 その考えが僕の脳裏をよぎった時、僕は無我夢中で少女の歩いて行った方を走っていた。

 そして少女が曲がった曲がり角を曲がると、数メートル先に居た少女に向かって。


「斉藤さん!」


 っと大きく彼女の名前を呼んだ。


「また明日もあの橋で会えますか?」


 大きな声でそう聞くと、少女はくるりとこちらを向いて。


「菜乃花でいいよ!」


 と大きな声で言った後に、またくるりとあちらを向いて歩いて行ってしまった。

 

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