死んでも治らないお互いに

 ゲームが始まったパーティー会場。人々の視線はステージ上の大きな風船に集中している。照明を落とされたフロアを、孔明の革靴は急いで人の間を縫い抜けてゆく。

 

 さっきよりはっきりと聞き取れるようになり、どうも男ふたりが張り合っているようだった。


「違う! 素晴らしいのはこっちだ!」

「いやいや、違う! こっちが素晴らしいのだ!」


 空中に浮かんでいるエイやクジラの招待客をすり抜け、人だかりができているのを離れたところで見つけた。


「いや、この奥ゆかしさが、繊細さを――」

「いや、この壮大さこそが、繊細さ――」


 相手に意見を言わせないように、かぶせ気味に会話は続いてゆく。


「何だと! さっきから大人しく話を聞いていれば!」

「それはこっちのセリフだ!」


 今にも相手につかみかかりそうな緊迫した様子だったが、そんなことを本当にしたら法律違反であるどころか、神界の住人とは到底思えない行いだった。


 龍の大きな背中を前にして、孔明は考える。


(やっぱり聞き間違いじゃない。この声……)


 最後の砦を落とすように、龍の前へ出ると、料理のテーブル近くに、自分よりも大きな男たちがごつい体で陣取っていた。


 左側に立っている男の横顔は、ヒゲだらけで、勇猛果敢な武者のようで、ギラギラとした熱さを持っていた。だが、孔明には見間違えようがなかった。


張飛ちょうひ?」


 ヒートアップしているところで話しかけられ、呼ばれた人は睨み付けるようにこっちへ向いたが、


「誰――!」


 聡明な瑠璃紺色の瞳と凛々しい眉を見つけると、ぱあっと笑顔になり、人懐っこそうに走り寄ってきた。


「孔明じゃないっすか!」


 持っていたラム肉の皿が落ちないように気をつけながら、孔明は砕けた口調に変わる。


「久しぶり〜」


 張飛はガバッと孔明に抱きついて、再会の喜びをしばらく味わい、体を離して十センチも背の低い孔明の顔を見下ろした。


「いや〜、もう二千年ぶりっすかね?」


 パーティー会場の楽しい気分はまた人々に漂い始め、孔明の狙い通り平和に場は戻った。


「張飛は相変わらず、適当に計算してるよね。千八百年ぶり」

「変わらないっすよ」

「二百年も違ったら、世の中変わっちゃうよ」


 全てを記憶する頭脳の持ち主からしたら、丼勘定もいいところだと、孔明は思った。張飛はどっしりとした体で、友の姿をじっと見つめる。


「ずいぶん背も伸びて、若返ったっすね」

「張飛の背はボクよりも高いけど、全然変わってないね」


 魂と肉体が一緒の人間もいるのだという情報を得たが、最後の言葉には少しトゲがあった。しかし、張飛はまったく気にせず、ガハハと豪快に笑う。


「俺っちは心も体も一緒で分かりやすかったってことっす」


 自分とは違って繊細さに欠ける、能天気な男に、孔明は皮肉まじりに言ってやった。


「相変わらず何でも前向きに取って、それが災いして、敵の罠にはまりそうになったのをボクが止めたんでしょ? 大変だったんだからね」


 敵から送られたきた毒入りの食べ物であろうとも、ありがたいと言って食べてしまうようなタイプだった。この目の前にいるガタイのいい男は。ある意味、神界仕様なのかも知れなかった。悪意を善意に取るのだから。


 張飛は照れたように金の髪をポリポリとかいた。


「それは感謝してるっすよ。今会ったのも何かの縁っすね」

「もう。また前向きに取って、反省全然してない」


 孔明はひどくあきれた顔をした。張飛は他の人から見えないところで、孔明の腕を手の甲で軽く叩いた。天色あまいろの瞳がパーティー会場の中庭へと続く出口を見ている。


 すぐ近くを通っていた給仕係が持っているトレイからお酒をいくつか取って、ふたりの姿は会場から消え去った。


    *


 一瞬のブラックアウトのあと、中庭の立派な噴水のせせらぎが聞こえてきた。外のひんやりした空気が頬をなでる。人々から瞬間移動をしてきたふたりは、雪もやんだベンチに腰掛けていた。


「まぁ、そんなことより、あのあとどうしてたっすか?」


 張飛が大量に取った料理が、所狭しと並べられていて、ふたりで星空と都会の摩天楼を眺めながら、昔話に花を咲かせる。


「張飛って、おかしなこと聞く。霊界にずっといたってことでしょ?」

「そうっすね! ここに孔明でいるってことは、俺っちと一緒で転生しなかったんすね」


 生まれ変われば、その人は別の人になる。だからこそ、命というものは尊いのだ。食べ損ねていたラム肉を味わって、孔明は風で揺れた漆黒の髪をかき上げる。


「張飛は自分の力で、神界に上がったの?」

「いや違うっす。陛下に呼び出されたっす。皇帝陛下万歳っす!」


 勇猛果敢な武者みたいな男は、綺麗にライトアップされている城を見上げながら、首を横に振った。


「いつ来たの?」

「ついさっきっす! パーティーがあるからぜひ出席するように言われたっす!」


 家族づれやカップルが中庭を行き交い、飲み物を運ぶ人々が会話を壊さないように気を使いつつ、給仕をしている。


 世界は穏やかで、木に少しだけ積もっている雪が、もうすぐ来るクリスマスとかいう盛大なパーティーを予感させていた。


 持ってきた料理は大量で食べても食べても減らず、ふたりのお腹は幸せをともって満たされてゆく。こんなに静かでゆったりとした食事などしたことがなかった。


 本当に世界は新しくなって、再会できたことは大きな歯車のひとつが噛み合ったのかもしれない。いやずっと前からここへとたどり着くようになっていたのかもしれない。悪の導入が神様たちの実験だったのならなおさらだ。


 パーティー会場から楽しげなはしゃぎ声が聞こえてきて、孔明が口を開いた。


「さっきの人誰?」

「山本 勘助っていう日本で軍師やってた人っす」


 どっちもどっちだと思いながら、孔明は話を続ける。


「何の話してたの?」

「どっちの国がすごいか意見交換してたっす」


 どうやってもそんな雰囲気ではなく、一触即発だった。孔明はため息をつきながら、カラのカクテルグラスを石畳の上に置いた。


「張飛、本当に相変わらず何でも前向きだね。さっきのは意見交換じゃなくて、我のぶつけ合いでしょ? 意見を言う時は、相手が聞くように仕向けてから言わないと、時間の無駄」


 豪快に食べていた男は手を止めて、ゴクゴクとビールをあおった。


「孔明も相変わらずっすね。策略ばっかりして、悪戯坊主は死んでも治らなかったんすね」


 肉体という器が邪魔をしていて気づかなかった、こんなに話が合うとは。いつも春風みたいな柔らかな雰囲気で、好青年なイメージの孔明は怒りで表情を歪めた。


「そのセリフそのままそっくり返すよ。張飛の我が強いところは、死んでも治らなかったんだね!」


 ふたりとも吹き出して笑い、張飛は孔明の肩を力強く叩いた。


「いいっすね。平和ってのは」

「そうだね〜」


 小首を傾げると、漆黒の長い髪がベンチからさらっと落ちた。


「こんなふうに話すことなんてなかったす」

「本当になかった……」


 孔明が感慨深く言うと、言葉はふと途切れた。パーティー会場から聞こえてくる音楽が背中で微かに響く。


「…………」

「…………」


 孔明と張飛には生まれ変わろうという気持ちなかった。勝算が見出せない。下手をすれば、邪神界だと知らずに魂を売り飛ばして、たくさんの人の心を傷つけたのかもしれない。そう思うと、賢い人ほど、転生はしなかったのだ。


 それでも、悪に絶対に負けないと果敢に向かっていって、二度と日の目を見ないことを覚悟で、人々の励みに少しでもなればと、捨身の覚悟の人もいた。


 転生すれば記憶はもう戻らない。自分のことを相手は忘れてゆく。その中で永遠を生きてきた日々だった。


 神でさえも誰もが世界を変えられず、時は過ぎてゆき、人々の心は幸せになることもないのだと思った。


 それなのに、今はここに一緒にいて、神様の世界に広がる夜空を見上げている。


「…………」

「…………」


 降り出した雪に濡れてもいいのだ。風邪を引くなどと心配する必要もない。思う存分、白い綿を見上げていられる。綺麗だと思えることを、綺麗だと感嘆してもいい。


 人の不幸を願う誰かが一人でもいる限り、足したり引いたり。そんなことばかりで、正直な気持ちで相手に心から身を任せたことなどなかった。


 冷たいはずの雪さえも、暖かく感じる。聡明な瑠璃紺色の瞳は珍しく涙でにじむ。自分を覚えていてくれた人が、隣にいると思うと、冷静な頭脳も鈍るのだ。


 そんな感動している孔明の隣で、張飛はさっきからガツガツと料理や酒を豪快に飲み食いして、まったくもってシリアスシーンが台なしなのだった。


「いや〜! 食べ物マジでうまいっすね! 神界に来てよかったっす!」


 孔明は物に瞬間移動をかけて、お気に入りの扇子を手の中へ出し、張飛のおでこを引っ叩いた。


「もう!」


 重力十五分の一だからこそ、衝撃がほとんどない神界。張飛はわざと孔明を見ずに、食べ物に夢中になっている振りをした。


「ふ〜ん!」


 ゴクリと飲み込んで、張飛は手のひらで口のまわりについた食べ物を適当に拭いて、自分の服になすりつけた。それさえ、汚れにならない世界。


「孔明、仕事はどうするっすか?」


 まだ準備中で、人に聞かれては困る極秘事項。孔明は何気ない振りをして、あたりを見渡したが、人々は遠くを歩いていて、そばには誰もいなかった。


 張飛は確かにお調子者で感情的になりやすいが、情には厚い。しかも、内緒話はよくしたものだ。孔明は少しだけかがみ込み、耳元で口止めを要求する。


「ここだけの話」

「いいっすよ。昔のよしみっす」


 張飛は酒が入ったグラスを口につけて、視線は前をまっすぐ向いたまま、大した会話ではない振りをする。孔明はお礼を言って、そのまままっすぐ伝えた。


「ありがとう。私塾を開こうと思ってるんだ」


 少しの間、風が遠くに飾ってある大きなクリスマスツリーを揺らしていたが、張飛は孔明に振り返って、ひげだらけの顔で微笑んだ。


「いいんじゃないすか? 孔明の頭の中をたくさんの人たちに広めるのは、世のため人のためじゃないっすか」

「張飛は本当に何でも前向きだね。でもそれが安心するかも?」


 可能性の数値というものは、新しい情報が入ってこない限りはほとんど変化しない。神界の前向きな考え方に触れていない、孔明にとっては張飛の解釈が今は心地よいのだった。


「そうっすか。それならいいんすよ」


 同じ時代を生き抜いてきた張飛だ。少しぐらいの知恵はある。さっき泣いていた孔明が幸せなら、何でもしようとお人好し全開だった。


 近くの植え込みを歩いてゆくカップルを、張飛はチラッとうかがう。


「誰か好きな人は見つかったっすか?」

「ううん。張飛は?」

「俺っちもいなかったすね」


 孔明はわざとらしく、疑いの眼差しを向けた。


「酒池肉林じゃなかったの?」

「ならないっす。肉体から抜けたら、まったくそんなものに振り回されなくなったっす」

「人間の三大欲求がないのが、霊界と神界だからね」


 自分も体感しているのに、孔明はわざと張飛に言った。冗談が言え合えるほど仲のいい関係が出来上がってゆく。


 骨付き肉を大きな口を開けて、一口でかぶりついた張飛はもぐもぐとあっという間に食べて、今は若くてイケメンになってしまった孔明を見つめた。


「結婚はしないんすか?」

「しない。純粋に仕事だけをしてみたいから」


 結婚と出産ブームの世界で、違う道を歩もうとしている孔明。張飛はここぞとばかりに突っ込んでやった。


「孔明は相変わらず、仕事バカっすね」

「いいでしょ? 好きなことを好きにやりたいんだから。子供なんて育ててる暇はないもん」


 雪が止んだ空を見上げていた、聡明な瑠璃婚色の瞳がこっちへ向いて、漆黒の長い髪が緩やかな円を描いた。


 後ろにオレンジ色の明かりが広がり、クリスマスツリーの飾りがあちこちで色とりどりの花を咲かせて、凛々しい眉をした男を引き立たせて、まるで映画のポスターでも見ているような気分にさせる。


 張飛の隣でカラになった皿が全て山積みになると、自動回収システムで姿を消した。


「そうっすか? 子供も自分の心の糧になるっすよ」


 両手をそろえて、グレーの光沢があるタキシードを着た、孔明はきちんと座り直した。


「とりあえず今はいい。張飛は仕事は決まったの?」

「俺っちは、聖獣隊っす!」


 張飛はサッと立ち上がって、ちょうど近くにきた給仕係から食後のお茶をふたつ分受け取った。


 渡された湯飲みを、孔明は両手で包み込むように持つと、寒さは感じないのに、白い湯気がゆらゆらと上がった。


「あれ? 張飛、議会のメンバーになるんじゃないの? あんなに政治好きだったのに」


 皇帝陛下が玉座に座っているから、王政だと思いがちだが、立憲君主制なのだ。議会が基本的に政治は仕切り、意見が分かれた時に、皇帝陛下が決めるという政治体制だった。


 口直しのお茶を一気飲みして、残っていた酒のグラスに、張飛は手を伸ばし始めた。


「本当に向いてることが他にもあるかも知れないって、思ったす。すぐに職を変えられて、世の中をよく知ることができるって言ったら、特殊部隊の聖獣隊が最適かと思ったんす」


 豪快に好きなものを好きなだけ食べて飲んでをしている男は、抜け目がないのだった。城に関わっていれば、新しい情報は入ってきやすい。孔明はお茶を一口飲んで、隣の男を評価する。


「ふ〜ん。張飛って、見た目に反して、意外と計画的なんだよね」


 ただおしゃべりなのだ。それは情報漏洩が簡単にしてしまうことだった。


「そうっすか? 世の中が平和になっていくほど、特殊部隊の存在は必要性を失う。いつかはメンバーを減らして、規模を縮小する可能性があるっす。そうしたら、辞める日が来る。もちろん、陛下への忠誠心は持ってるっすけどね」


 張飛がどんなレベルで物事を見ているのか、孔明の精巧な頭脳に記録されてゆく。


「何をやるか考えてるの?」

「いや、まだっす。ただ別の宇宙に行ってみたいっすよ」

「首都があるこの宇宙じゃなくて?」


 今見上げている夜空に浮かぶ、星たちよりももっと遠くの場所。自分たちが瞬間移動できる範囲を越した、まったく別の宇宙。


「そうっす。他の宇宙は価値観が違うって話を聞いたっすから、そこで自分に新しい何かを見つけられるんじゃないかって思ったっす」


 孔明は飲み終えた湯飲みをベンチに置いて、大雑把な親友に一言言ってやった。


「また闇雲な話だね」

「違うっす。前向きっす」


 張飛も負けていなかった。膝の上で頬杖をついた孔明の唇から、白い息が上がる。


「まっ、張飛の人生だからね、張飛が行きたい場所に行って、やりたいことをすればいいんだよ。それが張飛の幸せなんだからさ」

「まだ先の話っすけどね、別の宇宙に行くのは。霊界ではずっと会えなかったっすけど、これからはいつでも会えるっす」


 全てを覚えている精巧な頭脳だからこそ、忘れたくても忘れられない。数々の戦地で今そばにいる人が必死で戦っていた姿が、ひとつひとつ思い出される。


「あのあとどうしたかって、時々思い出してたよ」


 生者必滅しょうじゃひつめつの言葉通り、死を迎えて戻ってきた世界。霊層という壁で阻まれ、会うことも見ることも叶わなかった。お互いの姿に化けた邪神界の人間はそばにれども、本物は一度も来なかった。来れなかった。


「そうすか。孔明は優しいっすね」


 張飛は両手で膝を何度もさすって、照れた顔で星空を見上げていた。そこへ、孔明がもう一度ボソッと付け加える。


「張飛みたいにお人好しじゃないよ」


 この世界にいる誰よりも、お互いを知っている相手。それが新たな絆となって、彼らは他の神々に紛れてゆくのだ。


    *


 千切りにしたニンジンに衣をつけて、高温に熱した油の中にそうっと落とした。天ぷらの揚がる鈍い音が乱雑な台所に響く。


「張飛さん……?」


 コウから名前を聞いた澄藍は、揚げたそばから食べていってしまう彼が、もぐもぐと口を動かすだけで、何も返してこないものだから、彼女は冷たい視線を投げかけた。


「で?」


 澄藍に負けず劣らず、コウは吹雪いているような冷たい目線を送り返してくる。


「何だ? その目は」

「どのゲームソフトにモデルで出てるのかな?」


 イケメンばかりの神様たち。見た目も性格の説明も受けていない、乙女ゲーム三昧の三十路女に、コウはピシャリと言った。


「張飛が恋愛シミレーションゲームに出るわけがないだろう!」

「え? じゃあ、買わなかった、人をバッサバサ切るゲームにしか出てないってこと?」


 油の音が高くなり、澄藍は焦げないうちに、ニンジンの天ぷらをキッチンペーパーの上に移した。


 くりっとした赤と青の瞳はそれを鋭く捉えながら、珍しく憤慨した。


「当たり前だ! だから、買えって言ったんだ!」


 大人の神様を見るという鍛錬をしているのに、情報源を逃してしまい、澄藍はナスに衣をつけながら、ため息をついた。


「はぁ〜。それは自業自得だから、名前だけでも控えておこう」


 揚げたてのニンジンの天ぷらをさくっと噛み砕いて、コウは偉そうにふんぞり返る。


「そんな反省したお前に朗報だ」

「何?」


 また油のパチパチという音が弾け出し、換気扇に煙とともに吸い込まれてゆく。


「今はまだ発売されてないが、張飛がモデルで出てる恋愛シミレーションゲームが後日発売される!」

「よし、それは買おう!」


 見た目や性格がわかっていたほうが、霊視するには断然有利なのだ。天からスポットライトが差して、祝福の鐘が鳴った気がして、澄藍は目をとろけさせた。しかし、コウがしっかり地へ下ろした。


「ただし、パソコンゲームだ」


 思わず動かした菜箸を伝って、衣がシンクの上にクリーム色の線を描いた。人間の女は頭に手を当てて、表情を曇らせる。


「いや〜! 私のパソコンは肩身が狭い、マッキントッシュなんですけど……。発売されない!」

「テレビゲーム版が出るまで待て」


 全部出るとは限らないが、神威かむいが効いたものはどれも大ヒット作品ばかりだから、出るのは間違いない。いや、神様のコウが言うのなら間違いない。しかし、全てを記憶していない女は、かき揚げの材料をボールに入れて混ぜながら、


「それまでには忘れてしまいそうだ」


 ボソッとつぶやいて、夕飯の支度はまだまだ続いてゆくのだった。

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