旅三十一日目 神武天皇の誕生

 さて、久しぶりに豊玉姫様の住む、海底宮殿へと戻って来ました。


 夫である山幸彦様と、我が子の鵜葺草葺不合命様ウガヤフキアエズノミコトサマを地上に残してきた豊玉姫様ですが、彼女は大丈夫でしょうか?


「はあ、アエズ大丈夫かしら? 山幸彦がちゃんとしてくれればいいけど」

 やっぱり、置いてきた子供が心配なようですね。


「いい加減、義兄さんの事を許して、地上に行けばいいじゃない! あの人、姉さんにゾッコンだったから、サメの姿見られていても大丈夫よ」

 そう声をかけて来たのは、豊玉姫様の妹の、玉依姫様タマヨリヒメサマです。


「ダメ! それは出来ない! 女のプライドが許さないの」

「そういうものなのね……」

「そうだ! 玉依姫が地上に行ってアエズの面倒をみてきてよ!」

「ええ! 私が!?」

「お願い、貴女しか頼める人がいなうのよ!」

「別にいいけど。私も甥っ子の顔が見てみたいし」

 こうして玉依姫様が地上へ向かい、生まれたばかりのアエズ様の面倒をみる事になりました。



 

 玉依姫様と一緒に、山幸彦様とアエズ様が住む日向ノ宮へと戻って来ました。おや、庭掃除をしているのは、海幸彦様ですね……まあ、色々ありましたが、彼は彼なりに頑張っているようです。


「お義兄さん、お久しぶりです」

「玉依姫じゃないか! どうしたんだい? もしかして、豊玉姫も一緒にいるのか!?」

「いえ、残念ですが、お姉さんはいません。代わりにアエズの面倒をみてこいと言われました」

「そうか……」

 山幸彦様が落ち込んでいますね。出来心で覗いてしまったとはいえ、豊玉姫様の事を深く愛していたようです。


「でも、お姉さんから伝言を預かっています」

「なんだって」


『山幸彦様、今でも、貴方の事を愛しています by豊玉姫』

 それを聞いた山幸彦様の目から一筋の涙が溢れます。


『愛しい我が妻よ。私が生きているかぎり、一日も貴女の事を忘れぬ日はないでしょう by山幸彦』という返事を玉依姫様に託したのです。 


 子種を撒き散らしたがる日本神話の男神には珍しく。山幸彦様は一途な愛を貫きました。


 山幸彦様と豊玉姫様は玉依姫様を伝言役として遠距離恋愛を続けました。その期間はとても長く、山幸彦様の寿命が尽きる580年間も続いたと言われています。

 しかし二神が生きている間に、再会する事はありませんでした。


 これも一つの愛の形なのかもしれません。


 一方、山幸彦様の息子であるアエズ様は、叔母にあたる玉依姫様の手により、すくすくと育ちます

「ボクね。大きくなったら、玉依姫と結婚するの」

「そうなの? うふふ、楽しみにしているわ」


 この時のアエズ様の言葉は現実となります。


 アエズ様は大人になると玉依姫様に求婚して、二神は夫婦となりました。


 かなり歳の離れたカップルですが、アエズ様と玉依姫様の間には、四人の男の神が産まれます。

 その内、末っ子の神倭伊波礼毘古命様カムヤマトイワレビコサマが、後の初代天皇である神武天皇となるのです。


 


 皆様、混沌の時代からはスタートしたこの旅も、いよいよ終わりに近づいてきました。

 

 次の旅路のは、カムヤマトイワレビコ様と共に巡りますです。

 

 彼がどのように初代天皇となり、大和朝廷を成立させ日本という国を作り上げたのか、見て行きます。


 それでは、また次の旅でお会いしましょうノシ


 


 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る