第25話 委員長の贈り物


 魔物を倒し、散々に散らかした廊下を抜けるとそこは大広間だった。

 

 きらびやかで豪奢であったであろう部屋。

 今は埃にまみれ朽ち掛けた装飾品。

 この城が隆盛を誇っていたその時期には毎夜舞踏会等が開かれていたのだろう。

 今、目の前に見えるその光景のように。

 そう、先程から見掛けていた幻影がその広間に集まり踊って居た。

 古臭い格好の大勢の老若男女。

 聴こえない音楽に合わせての流れるようなステップ。

 それを遠巻きに見ているカップル。

 なんだか楽しそうに会話している。

 その声は聞こえはしないのだけど。

 

 「これは、いったいなんなんだろう?」

 思わず口につく。

 襲って来る魔物でもない、ただの景色の一部か?

 

 「さっきからおかしいよね」

 鎧君も首を捻る。

 「石像なんか……カードも落とさない」


 「あれ? そういえば……煙に為らなかったな」

 猫も小首を傾げて。


 「魔物では無かったのかしら? 私も名前は知らないし」

 ランプちゃんまで。


 「成る程……」

 少し考えて。

 「って事は……これはもしかして委員長の仕業?」

 もしそうなら、ここに来たって事だ。

 しかし、そう考えると辻褄が合う気がする。

 

 城の中に舞踏会。

 これで王子様でも居ればそのままの少女趣味だ。

 委員長の隠れた一面ってやつか?


 「で、次はどっちに?」

 猫もここはもういいようだ。


 確かにただ見ているだけのアトラクションにはもう飽きた。


 「さて、どうしたものか?」

 進める道は、見れば広間の三方に有る。

 奥の正面と左右に次の部屋か? それとも廊下か? の開かれた扉が見える。


 うーん。

 考え込んでしまう。

 こんな時、委員長なら即決なのだろうが……どうも俺はそれが苦手だ。


 「ホー……」

 俺の背中から這い出したフクロウが頭の上に立って、片方の翼で右の方角を指した。


 今まで、俺のパーカーのフードの中に入っていたらしい。

 いつの間に?

 と、思う前にその存在を忘れていたな。


 だが、フクロウが方角を指すという事は、それに何か意味が有る筈だ。


 「決まったな」

 右手に歩き出した。




 そこは、小さな部屋だ。

 奥に暖炉が見える。

 もちろん火は着いていない。

 その横にテーブルが一つ壁際にくっついて置かれている。

 左の壁にはまた次の部屋への出入口、扉は着いていない。

 後はそこかしこに椅子が有るだけ。

 ホールの待合室か?

 それとも休憩所の様なものか?

 そもそも城の造りに詳しい訳じゃない、だから今一わからない。


 ただその部屋には意味は見出だせない。

 なので次に行こうと、歩みを止めずに進んでいると、フクロウがもう一度鳴いた。

 「ホー」

 指す方向は暖炉の横のテーブル。


 「そっちなのか?」

 壁の向こう側なのか?

 「回り込めるのかな、道を探さねば」

 

 だが、歩き続ける俺の髪をクチバシで引っ張り。

 「ホー」

 

 ん?

 何か違うのだろうか?

 その場に立ち止まった。


 猫達も俺の頭の上のフクロウを見ている。


 「暖炉に何か有るのでは?」

 鎧君がそちらに歩いて行った。


 その後を猫も追う。

 「この机……何か書いてある」

 暖炉横の机を覗き、そして俺の方を見た。


 俺もそれに答えて歩み寄る。

 机は埃が積もり真っ白なのだが、ソコに「ここのボスの為の道具」と、指でだろう書いた後が有る。

 そして、右に矢印。

 

 「委員長の字?」

 多分そうなんだろう。

 委員長の字は見た事が有る。

 学級会の時の黒板の文字だ。

 だけど、ソレとコレとが同じかどうかはわからない、そもそも特徴がない。

 委員長の字は綺麗だ、くらいしか印象に無い。

 ただ、コレを書く他の者の心当たりも無い。

 委員長だと確定でいいんじゃ無いだろうか。


 「コレのことかな?」

 猫が手に持つソレ。

 暖炉の脇に立て掛けてあったもの。


 大きなシャモジを2つ重ねて間に蛇腹の形の革で繋げてあり、その先には細い筒が付く。

 「フイゴ? だな」


 「なに? それ」

 猫が小首を傾げた。

 

 「暖炉に火を入れる時に空気を送る、そんな道具だ」

 猫の持つフイゴを取り。

 それを猫に向けて使って見せた。


 「空気? 出てないよ」

 向けられた筒の先に肉球を当てて。


 ?

 「壊れてる?」

 今度は自分に向けてフイゴを使う。

 だが、猫の言う通りに空気は出てこない。

 

 「コレじゃ無いのかな?」

 何度か続けてバタバタとやってみた。

 

 「他には何も無いようですよ」

 鎧君が暖炉の脇をもう一度調べて。


 「コレに何か意味が有るのでは無いですか? 壊れていても」

 ランプちゃんが筒の先に取り付き穴の中を覗く。


 その間もなんとなくフイゴを動かし続けていたら、急にランプちゃんの悲鳴。

 見れば、腕がフイゴの先の筒に吸い込まれていた。

 「コレ、空気を出すんじゃ無くて、吸ってますぅ」

 半分泣きそうな声で、必死に為って腕を引き抜こうとしている。

 

 そのランプちゃんがくっついたそのままで、フイゴの確認。

 見れば、片方のシャモジの腹に有る空気の吸い込み弁が逆に付いている。

 出すと吸うが逆に為るように。

 わざとそうしてある。

 どうやったって、こんな壊れかたはしない。


 「腕が……抜けません、助けて下さい」

 本泣きだ。


 可哀想なので、弁を指で開いてやった。

 スッポっと腕が抜ける。

 

 その腕に自分の唾を塗りたくるランプちゃん。

 痛かったのだろう。

 「腕がもげなくて良かったな」

 笑ってやった。


 「でも、それが逆ならますます意味がわからないね」

 猫も、しげしげとフイゴを見て回す。


 「委員長も、使い方くらい書いておいてくれればいいのに」

 机の文字をもう一度、確認した。

 

 「ボスに会えばわかるんでしょうか?」

 鎧君。

 

 「そう願いたいが……」

 手に持つフイゴに今一度、目を落とした。




 城の中の廊下を進む。

 あれから歩き回って階段を見付けた。

 上に伸びる螺旋階段だった。

 どれだけ登ったのかは、窓も無いのでわからなかったが、一本道だったので兎に角登りきった。

 

 そして今は廊下、奥に扉が見える。

 やっと息が整ったところ。


 魔物には出くわして居ない、それが救いでもあった。

 しんど過ぎる!


 扉を開ける。

 いきなり外だ。

 それも、相当に高い所。

 

 目の前には、満月を背にした塔が見える。

 そして、今居るこの場所から石の橋が延びていた。

 

 「ここを渡るのか?」

 橋のたもとの欄干から下を覗き、背中に何かが走る様な感覚に襲われる。


 「風のひと吹きで……落っこちそうだね」

 鎧君もその身を竦めている。


 「落ちたら死にますね」

 と、ランプちゃん。


 そんなランプちゃんをみて。

 君は落ちないだろう! 飛べるんだから。

 そう突っ込まずにはいられないが、どうもそんな暇は無さそうだ。


 いつの間にかに、空にはコウモリが飛んでいた。

 

 「急いで渡ったほうがいいんじゃ無いか?」

 猫が弓を構えて。

 「ぐずぐずしてると、集まってくると思うぞ」


 確かにそうだ。

 最初の小部屋にも沢山居たが、あれだけでは終わりじゃ無いようだ。

 「走り抜けるか? 行けるか?」

 その問いの間にも少しずつ増えるコウモリ。

 「一気に行こう」

 

 「俺が援護する」

 そう叫んで弓を射る猫。


 俺達は猫を置いて走り出した。

 猫は忍術で直ぐに追い付いて来る、だから心配はいらない。

 それよりも危ないのはランプちゃんだ。

 小さい体だ、コウモリに捕まればひとたまりも無いだろう。

 そう思い、先に捕まえてポケットに押し込んだ。

 

 塔へと向かう石の橋。

 そこを走る俺と鎧君。

 近付くコウモリは猫が撃ち落としてくれていた。

 

 だが、橋の真ん中辺りで止まる事になる。

 ソコに巨大なコウモリが立ち塞がったからだ。

 ダチョウの倍以上の大きさだ。

 猫の放つ矢も何本も受けて、刺さっているがそれでも倒れない。

 

 鎧君が盾となり。

 その後ろで、俺はパチンコを構えた。

 が、狙う間もなく空に舞う大コウモリ。

 

 「癇癪玉は?」

 後方で猫が叫ぶ。


 「駄目だ、ここでは空間が開け過ぎている」

 あれは狭い部屋だから効いたのだろう。

 それに、癇癪玉は硬い何かに当たって初めて破裂する。

 それは橋か塔の壁くらいしかない。

 そこで破裂させても、空を舞うコウモリには意味も無いだろう。

 ここでは、多少驚かすくらいにしか役に立たない。


 パチンコで取り巻きのコウモリを撃ち落としながら考える。

 どうする?

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