不思議が日常

第12話 森

 

 ついさっきまで寝ていたのだが、今は駄菓子屋の前に居る。

 寝坊して慌てて来てみれば、委員長はまだ来ていなかった。


 昨日の夜。

 お姉ちゃんに頼み込んで、お小遣いを少し借りた。

 最初は母さんに頼んだのだが、あっさり断られてしまったのだ。

 どうにも気が進まないのだが、お姉ちゃんのところへと行ったのだが。

 やはり、すんなりと貸してくれた。

 お姉ちゃんは頼めば何時も断らない。

 お兄ちゃんには厳しいのだが、俺には甘い。

 だけど、どうしても気が重くなる、落ち込みまでとはいかないのだけれど。

 その理由は、俺にはわからない。

 甘えた後はただ憂鬱に為るのだ。


 まあしかし、これで武器が買える。

 昨日、使いきった爆竹の補充とパチンコの弾となる銀玉。

 小石では、今一狙い難かった、形が不揃いなのがいけないのだろうと丸い玉にしてみたのだが、たぶん正解だと思う。

 そして、今回の新兵器……ロケット花火を数本。

 もちろん癇癪玉もだ。

 それらを、パーカーのポケットに押し込んだ。

 ロケット花火だけは、長いので背中のボディバッグの中だ。

 お兄ちゃんの部屋から勝手に借りて来た、小さめのバッグ。

 両手が塞がらないのがいいカンジだ。

 ただ色が……それは仕方無いか、何せ兄ちゃんだし。

 趣味の悪さは諦めるしかない、まあ別の世界に行くのだし多少は気にしなくても良いか。


 待っているその間に、カードの確認をしようと座れる木のテーブルの上に広げる。

 猫とフクロウとランプちゃん。

 そして、ダンジョン。

 今度は森の様だ、影に崩れてはいるが人工的な石の壁の様なものも見える。

 そう複雑な様でも無さそうだ。

 だが……問題はモンスターか?

 洞窟のスライムよりも昨日の巨大亀は、はるかに強かった。

 サルギンも厄介だったし。


 もう少し、武器に為りそうなモノを探した方が良いか?

 と、駄菓子屋の中を覗き込み、物色をする。


 当たり付きの紐飴、良く食べていた。

 そういえば、舐めさしの紐飴を振り回していたいたヤツがいたな……振り回せば武器か?

 汚いだけで、攻撃力は無いよな。

 

 食べるといえば、笛ガムも良く買った。

 口に含んで息を吹けば、ただ音がするだけ……たまに唾が飛んでいたな。

 ……汚い。

 

 キャラメルは定番だけど、高いから滅多に買わなかった気がする。

 これは、母さんかお姉ちゃんにねだるモノだ。

 その昔はだけど、小学生の低学年くらいの話だ。

 今は、普通に自分で買う……小遣いが有ればだが。


 今の季節、夏は風船アイスとか……。

 メロンアイス……。

 イカ串……。

 タコ煎……。

 ……。

 どう見繕っても攻撃力は無い。腹も満たされるわけもない。


 食べれ無いモノで何かないのか。

 ビー玉、おはじきは投げれば武器か?

 メンコ、これはただの紙だし。

 ベーゴマ……。

 どれも投げれば……か。

 投げるのなら、ここはやはり煙玉だろうか、これは幾つか買っておくべきだ。


 カエルのおもちゃ、おしりからチューブが出ていてその先にレモン型の玉、それを握ればカエルが跳ねる。

 意味が無い。

 

 ヘリコプターのおもちゃ、糸を引けばプロペラが回って空を飛ぶ。

 ……だからなに?


 ブーメランに吹き矢、それに弓のオモチャ。

 これは、武器に為るかも……チョッとお高いが。

 そのうちに買ってみよう。

 今は……無理。

 と、その隣に大きめの紙に張り付いたカードがぶら下げられていた。

 ふと自分が握るカードに目を落とす。

 似ている気がする。

 イヤ……見たカンじ、同じ種類だ。

 その中の1枚、鎧の絵が描かれている。

 ……鎧か。

 1枚30円。

 たぶん駄目だろうけど、試してみてもいいよね。

 鎧が出せれば儲けものだし……。

 30円くらいなら。

 手が延びる。

 30円だし。

 大きめの台紙から剥ぎ取って、おばちゃんのところへ。

 30円。

 ……。


 「来年、高校生に成るのに……30円くらいで悩まないでよ」

 振り替えれば、ソコに委員長。

 冷たい視線。


 だけどね、誰のせいでこうなったと思う?

 君が無理矢理、変なオジサンからカードゲームを買わせたからでしょう。

 イヤ……まあ。

 それなりに楽しんでいるのだが。

 委員長の半分くらいには……ね。


 買ったカードをポケットにしまい込みながらに、薄らく笑い返した。


 「私も、何か買ってみよう」

 と、ブーメランと吹き矢と弓を手に取る。


 「それを……買うんだ」

 

 「武器っぽいでしょ、さっきあなたも見ながら考えていたじゃないの」


 そうだね……実は欲しかったんだけどね……。

 目線が泳ぐ。

 買っちゃうんだ。


 「そんな事よりも、行くわよ」

 さっさとおばちゃんにお金を渡して、そして俺の手を引いた。





 今度の場所は薄暗い森の中。


 「なんにも無いわね」

 辺りをぐるりと見渡して。

 「道も無いじゃないの……ドッチヘ行けば良いのよ」


 確かに、周りは木が有るだけで360度何処にでも進める。

 今までとは少し違うカンじだ。

 委員長のお得意のカンも発動しない様だ。

 もしかして、そのカンってやつは二択までしか無理なのか?

 前回も前々回も前後の二択だったし。

 何かルールでも有るのだろうか?


 お供のカードを額に当てながらに考えるのだが、答えは出そうに無い気がする。

 

 何時ものメンバーが揃った。

 俺は擬人化猫とランプちゃん。


 委員長はフクロウ。


 そして、さっき買ったばかりのカードから出た鎧。

 本当に出るとは思っていなかったので思わず声が出てしまった。

 驚きの声……と。

 期待外れな声。

 なんとも微妙なカンじに為った。

 その理由は一目瞭然。

 目の前の鎧は、勝手に自分で……動いていた。

 

 銀色のフルプレートアーマー。

 

 ただ背は低いし手足が短くて、そしてメタボだ。

 そのうえ、がに股でもある。

 

 「強そう……には見えないわね」

 その委員長の意見に俺も賛同する。

 「動きも遅そうだし」


 「ただ、硬そうではあるけど」

 一応は良い点も探してみようと考えたのだが、鎧なのだから硬いぐらいしか見当たら無い。

 

 「中身は、この間のコブリンかしら」

 そう言って、ヘルメットのバイザーを開けて覗き込む。

 「あら、空っぽだわ……これで良く動くわね」

 首を捻った委員長。


 俺も覗いてみた。

 「ホントだ」

 不思議だ、中身の無い鎧だけなのに普通に立って、そして動いている。

 ガッチャン、ガッチャンといわせながらに。


 「で……武器は?」

 上から下から、前から後ろから何処から見てもソレらしいものが無い。


 「素手……じゃないわね鎧だし」

 顎に手を当てて。

 「金属の手袋? そんなので殴られれば痛いでしょうけど……」

 

 「モンスターに、ソレは効くの?」


 「さあ……でも、鎧だから殴られても大丈夫よね」


 成る程、殴られ役の囮か。

 俗に言うタンクってやつだな、ソレは結構重要な役割だ。

 そのうち、武器も手に入るだろう、猫の様に。


 「一応はこれでみんな揃ったのよね?」

 クルリと見渡して。

 「じゃ、行きましょうか」


 「そうだね、で……何処へ?」


 「適当に歩いて、座れそうな所を探して」

 背中のリュックをさして。

 「約束どおりに、お弁当を作ってきたからお昼にしましょう」

 

 明るい茶色の可愛いカンじの鞄だ。

 黒いサロペットにダボッとした薄いピンクシャツ、白いスニーカー。

 「委員長の普段着ってそんなカンじなんだ」


 「なに? ヘン?」

 

 「イヤ……私服姿は初めて見たから」


 「そう、でもあなたも……」

 ソコで言葉が止まった。


 なんだよ、俺の格好がオカシイのか?

 確かに、バックは駄目だろうけど。

 でも、ジーパンに黒いティーシャツにグレイのパーカー、黒いハイカットのコンバース。

 ……普通でしょう。

 多少、地味かも知れないけど、でも……姉ちゃんには良いカンじだと言われた。

 相当に俺には甘いけど……。

 

 「いえ……ただ、チョッと奇抜なバックね」


 !

 兄ちゃんのせいか!

 「イヤ……これは……」


 「そうね、趣味は人それぞれね」

 そう言って頷いて、そのまま歩き出した。


 俺の言い訳は……聞いてはくれないラシイ。

 センスは無いとそう思われた様だ。

 帰ったら、兄ちゃんに文句を言おう。

 勝手に持ち出したのは俺だけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る