raining 

 フロントガラスを伝う水滴をワイパーが振り払う。けれども、払うそばから雨が降りかかってくる。滴が滴を取り込んで、垂れてきたところをまた振り払う。

 昨夜未明から降り出した雨は、時間が経つにつれて激しさを増していた。屋外の階段は一夜にして、カスケードへと姿を変えた。空は灰一色で、朝だというのに辺りは薄暗い。

 降りしきる雨に、排水溝はとうに許容量を超えて、飲み込みきれず吐き出している。パトランプの赤い光を反射させ、叩きつける雨粒にさぶいぼを立てるアスファルト。飛沫を受けて、皆一様にスラックスの裾を濡らしている。

 レインコートを身に纏った鑑識たちが地べたを這いずり回り、証拠品の回収に努めている。事件の一部始終を記憶した痕跡が、水に流れてしまわぬように。

 現場に到着してからというもの、吉見はその場で、なにもできずにただ立ち尽くしていた。話しかけてくる人がいたけれど、声は耳を素通りしていった。どんな言葉も意味をなさなかった。

 うずくまるようにして倒れている。変わり果てた姿とはこのことで、顔面から血の気が失せている。胴体に空いた孔という孔から、赤みがかった雨水が側溝に向かって、止めどなく流れていく。

 これまでに何度となく、同じような現場で同じような遺体を見てきた。たとえ犯人が同じだとしても、同じ範疇にある事件なのだとしても、同じではなかった。見ず知らずのどこの誰でもないという点において、吉見にとってこれまでの事件と違っていた。

 どこかで、空き缶が雨に弾かれている。

 垂れ込める暗雲を見上げる。この様子だとまだしばらくの間、雨は降り続くのだろうと、吉見は思った。

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