第6話 改造許可、Getだぜ

「さて、次の寮監を決めるのは少し先になるが、副寮監がいるから彼女が当面の仕事を請け負ってくれるだろう」


 もしもの時のバックアップ体制、大事ですね。


「部屋の方だが――」

「失礼します。ペイロン伯爵がお見えです」

「通してくれ」


 お、伯爵が到着だ。入ってきた伯爵は、大変いい笑顔なんだけど……後ろにいるキラキラした人、誰?


 金髪碧眼、先日の黒服イケメンもキラキラだったけど、キラキラの度合いが違う。こっちの方が数段上だ。


 柔らかそうな髪は少し癖が入っていて、顔立ちは甘く精悍。これ、女子が放っておかないタイプですな。


 ちらっちらキラキラさんを見ていたら、伯爵が学院長の前で紳士の礼を執る。


「お久しぶりです、閣下」


 滅多に見ない、正式な礼だ。脳筋の里ことペイロン伯爵領じゃあ、礼儀なんてどこ吹く風だしね。


 にしても、伯爵が閣下と呼ぶとは。目の前の学院長って、侯爵以上の身分なのか。


 ……さっき、聞き捨てならない事も言っていたよね? 確か、学院長に就任するのは王族とかなんとか。


「久しぶりだね、伯爵。それに、殿下がこちらにいらっしゃるとはお珍しい」

「よしてください、叔父上」


 でんかって言った。今でんかって。じゃああのキラキラした人、王子様なの?


 隣にいるコーニーに、こそっと聞いてみる。


「コーニー、あの人って……」

「王太子のレオール殿下よ。ヴィル兄様とは、同年で同じ時期に学院に通っていたの」


 王子様もこの学院に通うんだ。てか、なんで王太子まで来たの? 本当に、話が大きくなりすぎていない?


 二人も腰を下ろし、一息ついたところでお話し合い再開である。まずは伯爵から、王宮でのあれこれの報告があった。


「まずはこちらから、王宮に提出されている貴族名簿を確認してきました。嫡出子も庶子も、同じ『タフェリナ・デュバル』という記載のみです」

「やはりか……嘘は書いていないが、記入漏れはあるという事だな」

「そうなります。また、陛下に話を通し、いっその事しばらくこの状況をそのままにしていく事が決まりました」

「何だと? それでは、こちらのタフェリナ嬢が――」

「レラなら心配ありません。そうだろ?」


 伯爵に確認されたので、無言で頷いておく。だって、ヴィル様に話すなって言われたし。


 そうしたら、気付いたらしいヴィル様が溜息を吐いている。


「レラ、もう話してもいいぞ」

「そうですか? では。家の事に関しては、伯爵達に一任していますので、私からは何も。このまま庶子として扱われても、何も問題ありません」

「いや、しかし、実際に屋根裏部屋に案内されたというではないか」

「別に問題ありません。あ、出来たら、部屋の改造をする許可をもらいたいのですが……」

「改造? 一体何をするつもりなんだ?」


 学院長が訝しみの目を向けてくる。うん、そうだよね。普通の伯爵家のお嬢様なら、物置部屋に使われていた部屋なんて! って怒るもんだ。


 でも、ここにいるのは日々ペイロンの魔の森で魔物を狩っていた女です。十年の月日で、すっかり戦闘民属脳筋科になった元伯爵令嬢なり。


 いや、正確には今も伯爵令嬢ですが。でも、そのうち家も国も捨てるつもりだし。


 おっと、今は学院長の質問に答えなきゃ。


「暑さ寒さに強い部屋にします。あと、ちょっと使い勝手がいいように変えたいなーって」


 こっちの建物って、屋根に断熱処理をしないんだよね。王都は国内でも南に位置するから、冬はまだしも夏は厳しいってコーニーが言ってた。


 だから、断熱を施して住み心地のいい部屋にしたいのだよ。あとは、研究所経由の魔道具をあれこれ置いて、床や壁も補強して……


「……現在の寮の建物を壊さないのなら、何をどう変えてもいいだろう」

「本当ですか!?」


 やったね! 学院長からのお許しが出た。んじゃ、早速研究所に連絡して、家具や魔道具を送ってもらおう。


 そうなると、移動の魔法陣も必要だなー。


「もう一つ、寮で魔法を使っていいですか?」

「本来なら禁止事項だが、攻撃系の魔法でなければ特例で許可する」


 学院長の言葉に驚いたのか、王太子殿下が学院長に確認してる。


「叔父上、よろしいので?」

「今回に関しては、学院側に非があるからな。せめてもの罪滅ぼしだ」


 別にいいのになー。女史はクビになったし、庶子扱いされても何ら困らないし。


 何より、あの家に関わらなくていいのなら、そっちの方がいいくらい。父や腹違いの姉妹はそう思わないみたいだけど、私にとってデュバル家は枷だ。


 本当は、ペイロン伯爵領でもっと力をつけてから、魔の森経由で国から出ようと思ってたのに。


 伯爵の手前もあるから、学院卒業まではおとなしくしていよう。伯爵は、いきなり押しつけられた気味の悪い三歳児を、手塩にかけて育ててくれた人だから。


 自分はある理由から家庭を持たないって決めた人なのにね。伯爵家の跡取りは、分家から養子を取っている。彼は私にとっても、気のいい「兄」だ。


 そんな彼等に、私のせいで王家からお叱りがいくような事は、あっちゃいけない。


 だから、国を出るのは卒業してから。ペイロン伯爵家との繋がりが切れてからじゃないと。


「それと、双方の名前ですが、共通のタフェリナは使用禁止という事になりました」

「そうだろうな。でなければ、特記事項を加えねばならん」


 ん? 名前くらい、どうでもいいけど。親しい人はレラって呼ぶし。クラスメイトくらいの関係なら、滅多に使わないタフェリナでもいいと思う。


 でも、伯爵達の意見は違った。


「ただでさえ同じデュバル姓を名乗るんだ。全くの別人って事を強調しておかないと、今度はレラの成績を乗っ取りに来るぞ。お前、魔法の腕は確かなんだから」

「え……」


 マジで? そんなヤバい子なの? 愛人の子って。


「確かにな。デュバル家の娘の話は私の耳にも入ってきているが、平気で人のものを取り上げるらしい」

「なんと……」


 ちょっとちょっと、学院長の耳にまで入るって、相当じゃないの? てか、そんな女子でも入学許可が出るんだ。


 そういや、金を積んで副学院長から出させたとかいう話、してなかったっけ? 金を出したのは当然、父だよねー。


「そんなやつと、同じ名前は名乗りたくないだろう? だから、学院ではローレル・デュバルと名乗るといい。レラは親族やごく親しい間柄の者だけが呼ぶ名だしな」


 いい笑顔の伯爵に、つい本音を漏らす。


「だったら、いっそデュバル姓も――」

「それは却下だ」


 何でさー。




 学院長との話し合いは終わり、ヴィル様は侯爵邸に戻る事に。私とコーニーは、このまま寮に移動だ。


「ねえねえ、屋根裏部屋、見に行っていい?」

「いいけど、今はガラクタが詰まれたほこり臭いだけの部屋だよ?」

「いいのよ。今の状態を見ておけば、改造後と比べられるでしょ?」


 ああ、ビフォーアフターを見たいと。それなら納得だ。


 屋根裏部屋へは、寮内の階段を使っていく。一番端の、普段誰も使わないような階段だ。


「ここ使って上り下りするのかあ」

「魔法の使用許可が出たんだから、いっそ一階の目立たない場所に移動出来るようにすればいいんじゃない?」

「よし、それでいこう」


 だってこの階段、薄暗くてしかもちょっとヤバい。魔物化まではしていないけど、いるよ、確実に。


 私がそう言ったら、コーニーはきょとんとしている。


「そうなの? まあ、いよいよとなったら、大聖堂にでも浄化を頼むんじゃないかしら」


 魔物化してしまえば、普通に魔法で倒せるんだけどね、ゴースト系も。ただ、寮内だと攻撃魔法で建物に傷がつくか……


 ちなみに、大聖堂で行う浄化は、ゴースト系の魔物に大変よく効く。なのでペイロン伯爵領では、定期的に領内の大聖堂に頼んで魔の森に入って浄化をしてもらっている。


 魔の森にはゴースト系もよく出るからね。あそこ、何人も命落としてるからさ……


 ただねえ、最初はひ弱な神官も、あの森に行くと何故か皆筋肉もりもりで戻ってくるんだよねー。しかも皆すっごくいい笑顔で。


 最初はみんな、震えながら入るのにな。三日くらい森にいて、帰ってくると凄いいい笑顔で筋肉を褒め称えるようになり、自らも鍛え始めるという。


 おそるべし、脳筋の里。


 階段を上がった先にある扉を開けると、薄暗い空間にあれこれ積み上げられた部屋がある。


「ここが屋根裏部屋かあ。本当にほこり臭いし暗いね。それにガラクタばっかり」

「改造の許可が出たって事は、このガラクタも処分していいって事だよね!」

「そこはもう一度、確認しておきなさいよ……」

「えー?」


 大丈夫じゃないかなあ。だって、ここに置いてあるのって、壊れたものばかりだし。


 と思っていたら、奥の方から嫌な感じがする。


「あ。ヤバい物発見」

「え? 何々?」

「これ、魔物化しかけてる」

「え」


 奥から見つかったのは、見るからにヤバい顔が割れた人形。ヘッド部分が木製で、塗料で肌の質感とかを出してるやつ。女児用の人形が、何故学院の屋根裏部屋にあるんだろうね?


 しかもこの人形、周囲の悪感情を吸収してかなりヤバい品になりつつある。顔の塗料もはげかけてて、不気味さ倍増。


「急いで浄化してもらった方がいいと思う」

「レラは浄化、出来ないんだっけ?」

「やってやれない事はないんだけど……」


 以前、筋肉だるまになった神官に教えてもらったんだよね。本当はダメらしいけど。


 浄化も魔法の一種なんだけど、適性がないと厳しい。それに大聖堂が技術を秘匿しているので、一般の魔法士はやり方知らないんだ。


 だから、本来私が使っちゃいけないんだろうけど……大聖堂に見つからなきゃ、平気かな?


「うーん、これ一体くらいなら大丈夫かも。コーニー、この屋根裏部屋全体に光と音を遮る結界、張ってくれる?」

「いいわよ。はい」


 お、相変わらず腕いいなあ。三兄妹の中でも、コーニーが一番魔法の腕がいいんだよね。


「んじゃ、いきますか。コーニー、念の為目をつぶっておいて」

「いいけど。何で?」

「すっごく眩しいから」


 コーニーが目をつぶって、手で目元を覆ったのを確認してから、手に持った人形相手に浄化の魔法を展開する。


 浄化される事に気付いたらしい人形が抵抗してくるけれど、なりかけであってまだ魔物化していない悪意の塊程度、屁でもない。


「おとなしく浄化されなさーい」


 さらに魔力を込めて、浄化の光で辺りが真っ白になった辺りで浄化完了。


「ふー。これにて終了」

「目、目が痛い……」

「あ、ごめんねコーニー」


 眩しすぎる光は、目に悪い。慌ててコーニーに治癒の魔法をかける。


「はー、助かったわ。それにしても、相変わらずとんでもないわね」

「いやあ、魔力量だけはどこに出しても恥ずかしくないって言われてるから」


 何せ、この魔力が増えた事で、髪と目の色が変わり家から追い出される事になったんだから。


「あの人形は?」

「浄化で消えたよ。ギリギリセーフってところかな」

「またよくわからない言い方をして」


 やべ。こっちではセーフって言っても通じないんだっけ。こういう時、転生は面倒臭いって思うんだ。

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