第18話 スカートのなか

 夕食時はニュースを観ていることが多い。

 世の中の動きを知るためとかそんな殊勝な理由ではなく、単純に時間帯の関係だ。

 好みで言えば、報道よりもバラエティのほうが好きだった。


 しかし、ニュースをネタにえりりと雑談するのは、けっこう楽しかったりする。

 この日も、未成年なのに喫煙をしたというアイドルの謝罪会見に対して、えりりが話を振ってきた。


「芸能人ってなんでこんな大げさに謝るんでしょうね」

「そりゃ、影響力がでかいからじゃないか?」


 なんとなく思ったことを俺は返す。


「きちんと謝っておかないと納得しない視聴者が多そうだし」

「それにしたって、わざわざ会見までする必要あります?」

「まあな。俺もそう思うけど、テレビ的においしいからじゃねえ?」

「おいしい?」

「だって、これでニュースの何分かは埋められるだろ」

「制作の都合なんですか?」

「知らんけど、そういうこともありそうって話だ」

「なるほど。芸能人も大変ですね」

「そうだな」


 有名税にも累進課税は適用されるらしく、大物ほどバッシングもきつくなるし。まともな神経じゃやってられないだろう。


「ふと思ったんですけど、いま喫煙で謝ってたじゃないですか」

「ああ」

「これって、えっちなコンテンツとかでも謝らなきゃいけないんですかね?」

「……どういうこと?」

「だって、お酒やタバコが二十歳になってからと同じように、えっちなのも十八歳になってからじゃないですか」

「あー、たしかに。そんなんで謝っている人は見たことないけど……もしエロ本読んで謹慎とかしたら伝説になりそうだな」

「ふふ、ですねー」


 と、ニュースの内容が変わる。

 教師が女子生徒に破廉恥な行為を働いたという、ちょくちょく起こるイヤな事件についてだった。図らずもエロ関係の話をしていたので、すぐにえりりが食いついた。


「同じ男性として、悠真さんはこういうのどう思います?」

「くたばればいいと思う」

「辛辣ですね。同感ですが」

「あと、そういうことをやる可能性があるやつは、教員試験で落とせればいいのになって思う」

「あー。たしかにそれができればいいですね」

「まあ、現実的には難しいと思うけど」


 短い時間の面接で人の心が理解できるなら、世の中はもっと平和だろう。


「なんにしても、えりりも気をつけろよ」

「あれ、わたしの心配をしてくれるんですか?」

「いちおうな。世の中には変態もいるから、無用な隙は見せないほうがいい」

「わかりました。悠真さん以外の男性の前では注意します」

「俺の前でも注意しろ」

「ん? 悠真さんは隙を見せたら襲ってくる変態さんなんですか?」

「ちがう」


 揚げ足をとるな。


「つれないお返事ですね」


 えりりは小さく吐息をもらし、


「あ、そうだ。隙で思い出したんですが、ひとつ質問してもいいですか?」

「いいけど。なんだ?」

「クラスメイトから聞いたのですが、男性はたとえ興味のない人でも、スカートのなかが見えそうになったら、つい目がいっちゃうというのは本当ですか?」

「…………まあ、そうかもしれないな」


 猫が動くものに反応するように、スカートのひらひらに踊らされるのは男の性だと思う。

 あと、ずいぶんマセたクラスメイトがいるんだな……。


「やっぱり悠真さんもそうですか」

「悔しいけど、そうだな」


 ここでうそをつくと逆にムッツリスケベ感がすごいので、素直に肯定した。

 するとえりりはいたずらっぽく笑って、


「では、わたしのでも見ちゃいますか?」

「……ノーコメント」

「えー、教えてくださいよー」


 にやにやと追及してくる。


「わたしってスカート多いので気になります」

「知らん」

「ねーねー、悠真さーん」

「いやあ、この肉じゃが超うまいな! えりりも食べてみろよ!」

「さっきから食べてます」


 そんなんじゃ誤魔化されませんよ、とえりりはジト目になる。

 ……ま、そりゃそうだよな。くそう、かくなる上は。


「ほら、えりり」


 俺は手頃なサイズのジャガイモをえりりの前に持っていき、


「あーん」

「えっ、まじですか!?」


 えりりが目を見開く。


「しょうもない話は忘れて、とにかくいまはこの肉じゃがを堪能しようぜ?」

「ちょっ、それずるくないですか!?」

「いらないのか?」

「いりますよ! もう、誤魔化されてあげますよ!」


 ぱくりとえりりは俺の箸からジャガイモを食べた。


「きゃあっ、超おいしいです! じゃ、今度はわたしのほうから」

「ごちそうさま」


 俺はえりりを無視して席を立つ。

 もちろん逃げるためだけど、実際お腹いっぱいだった。


「悠真さん! あとひと口くらい食べられるでしょ!?」

「残りは明日の弁当に入れてくれ! よろしく!」

「こらー! 逃げんなー!」


 今日も我が家の食卓は平和である。

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