第10話 時よ止まれ、画面は美しい

 エキストラ出演についてあれこれ。



 映画監督のアルフレッド・ヒッチコックが、自分の作品の端々にエキストラとして顔を見せていたのは有名な話。その理由は単にエキストラの人員が足りなかったから。繰り返し出演してる内にそれがファンを喜ばせる小ネタに化けたのは本人にも予想外と言うか大誤算で、後年は自分の出番をコントロールする様になったとか。



 逆に、ごく普通の役者が同じ作品のシリーズに何度もチョイ役で登場、視聴者に顔を覚えられるケースもあります。テレビドラマシリーズ『Columbo(刑事コロンボ)』のマイケル・ラリーが最たる例。


 シリーズ終了までに通算四十三回も出演し、それでいてドラマの本筋には殆ど関わらなかった脇役のお手本みたいな人です。本人の名前そのままで登場した回もある為、当時のマニアはテレビの前でほくそ笑んでいたに違いない。


 『刑事コロンボ』の本放映時は家庭用ビデオレコーダーが普及していなかったから、リアルタイムで観て確かめるのは大変だったでしょうね。



 本人の存在感が強過ぎて、探すまでもないキャラクターと化したのはアメコミ界の巨匠、スタン・リー。ある意味、顔見世興行なのかマーベル作品の実写化映画には毎回のごとくエキストラ出演していました。漫画原作者としてのファンサービスとマーベルコミックスの広告塔、両方の立場を上手く使い分けていたのかもしれません。



 こうして並べてみると、それぞれに立場もアプローチも全く異なるのに、観客の心はガッチリ掴むという不思議な現象。ただ、著名人のエキストラは【カメオ出演】という扱いになる為、通常の役者のエキストラより出演情報を集めやすい。その辺に大きな隔たりがあります。



 自分は以前、海外盤DVDを取り寄せて、一九五四年のモノクロ映画『The Belles of St Trinian's(聖トリニアンズ女学院)』を観た事があるのですが、よーく目をこらして画面を眺めると、そこには生徒の父兄役で出演している原作者ロナルド・サールの姿が。上映当時で三十四歳? たいへんに売れっ子だった時期です。


 日本だと知名度はそんなに高くありませんが、海外では有名なアーティスト。一九六五年の映画『Those Magnificent Men in Their Flying Machines or How I Flew from London to Paris in 25 Hours and 11 Minutes(素晴らしきヒコーキ野郎)』のポスターを描いた人だと説明した方が早いかしらん。それでも年配の人か、よっぽどの映画ファンにしか話が通じないだろうなぁ。



 北海道ローカルのテレビ局・HTBでは、つい最近までエキストラを大々的に募集していました。本編は二〇一八年九月にクランクイン、同年十一月にクランクアップ。来年三月に放送予定だそうで、どれくらいの規模で撮影されてるのか今から観るのが楽しみ。作品タイトルは『チャンネルはそのまま!』。漫画「動物のお医者さん」でお馴染み、佐々木典子原作の連続テレビドラマシリーズです。


 何でも、HTBが社屋を札幌中央区に移す前のタイミングで、引っ越し前の旧社屋(札幌豊平区)をドラマ用のセットに利用したとか。色んな意味で記念になりますし、HTBの一大コンテンツになりそうな予感。


 そこに一般から募集したエキストラを投入となると、人数が気になります。昭和の刑事ドラマ『西部警察part2』北海道編の時みたいに、平岸高台公園が大勢の人で溢れたら、さぞや壮観でしょう。



 おっと、もうひとかた存在感の強いエキストラの例を述べるのを忘れてました。ラバウルからの帰還兵にして妖怪漫画の巨匠、水木しげる。一九八〇年代、フジテレビに存在していたファミリー向けのドラマ枠「月曜ドラマランド」の中で、自身の代表作『ゲゲゲの鬼太郎』が実写化された際にカメオ出演を果たしています。【霊界郵便配達夫】という役柄がハマり過ぎ。


 出番はほんの少しでしたが余程インパクトがあったのか、後年のオリジナルビデオドラマ『妖怪奇伝ゲゲゲの鬼太郎 魔笛エロイムエッサイム』にも再登場。



 いやもう、自分の想い出を掘り起こせば掘り起こす程、エキストラの例について幾らでも語れる。それだけ映像作品にどっぷり浸かっていた証拠ですね。それを踏まえて、最後に一番平和な顔出しの例を上げます。これは完全に本編のネタバレになりますのでご注意を。



 劇場用短編アニメ『Pink Panther(ピンクパンサー)』の音楽編「Pink,Plunk,Plink(ピンク・コンサート)」(一九六六年)のラストに実写パートが差し込まれるのですが、そこに居るのが何とピンクパンサーのOPテーマを作曲したヘンリー・マンシーニ。台詞無しで拍手をしてるだけとは言え、本人役ですから盛大な楽屋落ちです。


 『刑事コロンボ』のテーマ曲も担当したマンシーニ氏が、ここまで気前よくカメオ出演したのはテレビドラマ『Frasier(そりゃないぜ!?フレイジャー)』(一九九四年)、映画『Gunn(銃口)』(一九六七年/テレビドラマ『Peter Gunn(ピーター・ガン)』のリブート作品)、そしてこの短編アニメくらい。


 劇中で指揮者ゴッコをしていて、思いがけず共演が叶ったピンクの豹は幸せ者。

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