第8話 こてこてコンテンツ

 家庭環境や経済状況にもよりますが、一九八〇年代の後半辺りまでは、テレビは一家に一台、それも茶の間にドカンと置いてあるのが普通でした。


 好きな時間に好きな番組を選べる、いわゆる【チャンネル権】は概ね家長(父親)のもので、子どもがテレビを自由に観れる時間帯は母親が夕飯の仕度で忙しい頃、だいたい夕方四時~六時の間くらい。


 自分も例に漏れず、夕方に再放送されてるアニメや特撮、海外ドラマのとりこでしたが、冷静に考えるとあれはテレビが子守り代り。食事どきに子どもが茶の間でキャーキャー騒ぐくらいなら、大人しくテレビに集中してもらってる方がマシと判断されたのでしょう。



 うろ覚えで語るのも何ですし、押し入れの奥に眠っていた古新聞を参照します。


 昭和五十二年(一九七七年)八月一日の北海道新聞のテレビ欄を見てみると、ちょうど夏休みの頃で番組編成もそちら寄り。親子で出演する一般視聴者のクイズ大会などは主婦向けのワイドショー(一時間番組)でよく催されていました。北海道ローカルではHBCの『パック2』とSTVの『2時ワイド・ハイ大沢です』が双璧。個人的には、後番組『2時ワイド吉瀬浩です』の方をよく覚えてるのですが今回は割愛。


 さて、肝心の夕方四時台からは各局で再放送ラッシュ。まずフジテレビ系列のUHBは円谷特撮の『ウルトラマン』。「小さな英雄」「宇宙船救助命令」「さらばウルトラマン」の三本立てです。初代ウルトラマンは全三十九話だから、もしかしたら夏休み限定の集中放送だったのかも。それが終わったらアニメ『てんとう虫の歌』、同じくアニメ『アパッチ野球軍』を放映。


 NHKは国会中継、NHK教育(現在のEテレ)は全国高校総合体育大会の開会式中継につき除外。TBS系列のHBCでは時代劇『江戸を斬る』をやってました。主人公が竹脇無我演じる「梓右近」につき第一シリーズでしょう。続いて、特撮『ウルトラマンA(エース)』、アニメ『樫の木モック』と子ども向けのコンテンツが並びます。


 テレビ朝日系列のHTBに至ってはホラー映画『吸血鬼ヨーガ伯爵』(一九七〇年製作)を放映。あいにく未見につき思い出はありませんが、当時の日本語吹き替えだと主役の吸血鬼の声は納谷悟郎、ヒロインの彼氏の声は納谷六郎なのだとか。キャスティングがレア過ぎて興味津々。で、その後の放送は『トムとジェリー』『宇宙の騎士・テッカマン』『ど根性ガエル』『魔法のマコちゃん』とアニメだらけ。


 日本テレビ系列のSTVはさらにマニアック。海外ドラマ『原潜シービュー号 海底科学作戦』『特別狙撃隊S.W.A.T』の後にいきなり『天才バカボン』が来ます。同日に本放送されてる『元祖天才バカボン』の宣伝も兼ねているとは言え、実に無骨な取り合わせ。他の年代の古新聞をチェックしてみても、刑事ドラマ『太陽にほえろ』、SFドラマ『未知への逃亡者ローガンズラン』といったアクション系の再放送が並んでますので、これはもうSTVの方針と言うかカラーに等しい。



 とまあ、この様に昔の夕方枠はカオスの極みだった訳ですが、そんな状況も時代が進む毎にじわじわと変化していきます。主な原因は一九八〇年代半ばから始まったアニメブームの沈静化(いわゆる【アニメ氷河期】)、子どもたちの塾通いによるテレビ離れ、ファミコンの登場、家庭用ビデオレコーダーの大幅値下がりによる普及など。


 とどめは、一九九〇年代初頭に誕生した夕方四時からの大型情報番組(二時間越え)。例えば、北海道ローカルのSTVは地元に特化した情報番組『どさんこワイド120』(現・どさんこワイド172)をスタートさせ、アニメや特撮、ドラマの再放送はストップ。新作アニメも夜七時以降か土日の夕方にごく少数しか流さなくなりました。驚きの仕様変更。


 ただ、当の子ども達は親の契約したBS・CSのチャンネルを観ていたり、安価なレンタルビデオのお世話になったりと選択肢が増えていたので、観たい作品をチェックする分には全然困っていなかったと思います。あの頃のレンタルビデオ店の盛況は凄まじかった……(二〇一〇年以降は、レンタル料金の価格破壊によるデフレ化で市場縮小)。



 今も昔も夕方に子ども向け番組を持って来るのは、NHKのEテレもしくはテレビ東京、テレ東系列のローカル局(北海道の場合は一九八八年に開局したTVH)。特にテレ東はどれほど社会的大事件や事故が起ころうとも、通常コンテンツを流す謎の安定感。子どもたちは喜ぶでしょうけど、大人の視点で捉えると「これで良いのだろうか?」と悩む事もしばしば。難しいですね。



 平成も終わりかけの現在においては、インターネット回線を利用した定額見放題の動画配信が登場、主流になりつつあります。好きなコンテンツを好きな時間帯に視聴出来る上、PCやスマホ、タブレットといった別デバイスにも繋がるのがありがたい。後は観る側が自制心を養うだけです。


 こればかりは子どもに限らず大人も気を付けないと、のめり込み過ぎて動画配信ならぬ【動画廃人】になる危険をはらんでますので。


 善かれ悪しかれ、多彩な映像コンテンツはこれからも視聴者の心を揺さぶり続ける事でしょう。

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