来ないな

「来ないな」


 今日はルナが入部して一週間が経った月曜日、つまり新入生が部活見学を始めて一週間経ったということだ。

 一週間経ったというのに入部どころかこの部に来たのがルナだけだ。

 このままではまずい。

 悠長に執筆ばっかしてる場合ではない。


「何がよ」


 こいつは危機感がないな。

 このままでは俺もお前も困るというのに。

 先輩である俺が後輩に現実ってものを教えてやらねば。


「入部希望者だよ」

「そんなの別にいらないわ」

「本当にそうか?」

「なによ、勿体ぶらずにはっきり言いなさい」

「じゃあ言わせてもらう。うちの学校はな、部員が最低三人いないと部活動として認められないんだよ」


 そう三人いるのだ。

 今この部は俺とルナの二人だけ。

 このままでは廃部になり必ずどこかの部活に入らなければならない規則から俺たちは別の部活に入らなければならなくなる。


「嘘でしょ……」

「本当だ」

「なんでもっと早く言わないのよ」

「いやぁ、初日からルナが来たから今年は豊作かなって思ってたんだよ。けど全然こないな」

「能天気に執筆してる場合じゃないわよ。その期限いつまでなのよ」

「来週の終わり」

「まだ一週間もあるわね……とはならないわよ! もっと焦りなさいよ、あなた部長でしょ」

「なんだ、部長の俺を頼りたいのか。それならそうはっきりと言えばいいだろ」

「そんなこと言ってないわよ! あんたがちゃんと働かないから文句言ってんのよ!」


 はぁ、これがツンデレってやつか。

 俺じゃなかったらわかってないぞ。


「まぁ落ち着け。俺一人でやるのもおかしな話だろ。お前も部員なんだからしっかり働け」

「あんたに指図されなくてもやるわよ!」

「じゃあどっちが部員ゲットできるか勝負するか?」

「いいわよ、あんたみたいな無能に部長は任せておけないからその勝負に勝ったら私が部長になるわ」

「好きにすればいい。勝てるならな」

「勝つに決まってんでしょ。あんたなんかに負けるわけないわ」


 ルナは俺を睨みながらそう言い部室を走って出ていく。

 全くまんまと勝負に乗ってくるとはこれで俺の目的が達成されるな。


 この勝負には必勝法がある。

 俺が今手にしている策を使えば必ず勝てる。


 まぁとりあえずその策が使える相手を見つけなきゃならない。

 俺も人探しに出かける。




 × × ×




 そして時間が経って俺とルナは部室に戻ってきた。

 部員を連れてきていたのは当然俺だけ。

 ルナは悔しそうな顔をしている。


 はは、はははははは。

 それだよ、その顔が見たかったんだよ。

 いつも毒吐いて俺の心抉る切り裂きジャックなお前の悔しがるその顔が見たかったんだよ。


「ま、今回は俺の勝ちってことだ」

「……どうやったのよ。誘拐?」

「なわけあるか! 単にルナが入部したって言ってまわっただけだ」


 そうこれが俺の必勝法だ。

 敵の人気を使って支持を得る。

 なれるで活動していればルナを知るものは多いだろう。

 だがこの学校では神無月セレナだ。

 これが同一人物だと知るものはこの学校では俺くらいだろう。

 それを使わない手はないということだ。

 だがこれはルナが自らの人気を使い部員集めをしていればお互いに連れてきていたことだろう。

 ルナならそれをしないと思っていたがここまで理想通りに動いてくれるとはな。

 やっべ、これのどこが必勝法だよ。完全ルナのおかげじゃねぇか。

 まぁいい、結果俺の勝ちなんだからな。


「卑怯よ! そんなので勝って嬉しいわけ?」

「ああ、嬉しいな。俺はお前の悔しがる顔が見たかったんだからな。どうだ、自分の人気によって敗北する気分は」


 ねぇ、今どんな気持ち?と煽るとかなり悔しそうに歯を食いしばっている。

 そんなに俺を喜ばせてくれるとは、高揚感で胸がいっぱいになるな。


「あ、あの、先輩私のこと忘れてませんか?」

「おっと、悪い」


 後ろに控えてた後輩を忘れていた。

 勝ったことだしこいつを紹介しないとな。


「って、セレナちゃん?」

「葵!?」

「え、なに? 君たち知り合いだったの?」

「そうなんです。セレナちゃんとは同じクラスで友達になってて」


 へー、この毒舌女に友達いたんだな。

 めちゃめちゃ意外なんだけど、てっきりぼっちかと思ってたわ。


「葵って小説書いてたの?」

「ううん、読み専だよ」

「どういうことよ! 読み専でもいいなんて聞いてないわよ!」

「いや、ここはネット小説部だからな。小説を書くだけの部活じゃない。小説書いたり読んだりするのが活動って言っただろ」

「それは両方するもんだと思うでしょ」

「そんなことはない。それに読み専を入部後書き手にする発想を持たなかったお前が悪い。今回は俺の圧勝だ」


 またしても悔しそうな顔をしてくれる。

 今日は本当に幸せだな。


「とりあえず部員が三人になって廃部免れたわけだし自己紹介でもするか。俺は部長の星宮千尋。ペンネームはヒロで執筆歴は一年だ」

「私は空葵そらあおいです。ブルースカイで活動してる読み専です」

「……神無月セレナ、ペンネームはルナよ」


 ルナのやつ大分悔しがってるな。

 いつもより口数が少ない。


 ブルースカイの方はショートカットで片側だけ編み込みをした栗色の髪をポニーテールにしていて明るそうな印象を感じる。

 身長はルナに比べれば大きいだろう。平均ぐらいか?

 胸って身長に比例すんのかな?

 ルナと比べると身長と同じ感じでおっきくなってるな。

 朝日奈先生入れても身長に比例してるな。


「セレナちゃんがルナだったんだ。私、感想とかレビュー送ってるんだよ」

「あ、そいつは感想とか読んでないぞ」

「最近読み始めたでしょ! 勝手に話さないで!」

「私の感想読んでくれてないの?」

「まだってだけよ。読み始めたからもうすぐ読むわよ」

「うん、わかった」


 俺のときよりルナの口調が断然優しい。


 話し終えると下校のチャイムがなる。


「今日はこれで終わりだな。帰るか」

「そうですね、帰りましょう」


 ルナはまだ悔しそうに俺を睨んで無言で歩いていく。

 なんか反撃が怖くなってきたな。

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