第2話 黒猫


 ある日の朝、お気に入りのジャムを作るために庭へ出たおばあさんは、まだ小さな子猫を見つけました。


「おや?なんだろうね」


 木苺を摘もうとしたところ、庭を囲う小さなレンガの影に、黒く丸い毛糸玉の様な物を見たのです。おばあさんはゆっくりと近くへ寄ります。


「おやおや、お前さん猫だったのかい」


 おばあさんが覗き込むとそこにはまだ小さな黒い猫が居ました。


「お前は1人かい?親はどうしたんだい?兄弟はいないのかい?」


 おばあさんは優しく声をかけます。猫からの返事はありません。


「あらあら、どうやら寝ている様だね。とても気持ち良さそうだね。今日は晴れているからね。」


 おばあさんはゆっくりと木苺を摘みに戻ります。


 「しかし、困ったねえ。まだ小さいんじゃ。鳥や狐に拐われてしまうかもしれないね。困ったねえ。家族が迎えに来てくれるかもしれないからね。下手に家にも入れられない。さてどうしたものかね。」


 おばあさんは不安を1人呟きましたが、どこか嬉しそうでもありました。おばあさんは摘み終わった木苺のカゴを持ち家へと入って行きます。おばあさんはキッチンへ向かい棚を開けお砂糖を探します。


「あった。あった。お砂糖だ。」


 おばあさんはお砂糖の入った容器を手に取りゆっくりと蓋を開けました。キュッ、キュッ、キュッ。


「あれまあ。お砂糖が少し。これじゃあ足りないねえ。私はうんと甘いジャムが好きなんだ。これじゃあジャムは作れないね。仕方がないねえ。お散歩がてら街に出ようかね。」


おばあさんが外に出ると、子猫の元に行きました。けれどそこには既に子猫の姿はありません。



「あれまあ。仕方ないね。きっとお母さんが迎えに来たのね。」


 おばあさんは街へ出かけて行きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る