第26話 下町という名の城下町という名の全容が把握できない町にいる伸也

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


伸也は荒い息を吐きながら、道の隅の切り株の上に腰を下ろした。

あの牢を抜け出した後、町の市街地の方向へと一目散に走った。そして今に至る。


「追っては・・・どうやら来てないようだな。」


もと来た道を振り返ってみるが、警報が鳴り響いているわけでもなく、あわただしく動いている様子はまったく見えなかった。まるで見放されているかのように。


「ぎゅるるる」


安心したらおなかがすいいたのを思い出したようだ。急に体の元気がなくなる。


「どこかへ食べに行くか。」


そう呟いて、おぼつかない足取りで歩き始める。その姿は夕日の赤に消えて行った。

ーーー


「うぅう・・・ここは?」


昨日までの固い床というわけではないが、元居た世界のベットよりは固い。

考える暇なく、部屋の扉がノックされる。


「もう朝ですよ。朝ごはんできてますから早く食べてください。」


扉越しに聞こえる声で今どこにいるのかを理解した。その声に対して、困らせてはいけないという考えになり、返答をする。


「はーい今行きます。」


その声と共にベットから起き、朝ごはんを食べに行った。

伸也が朝ごはんを食べ終わる前に、ここまでの経緯を説明しておこう。


ーーー


昨晩は日が暮れる時間だったこともあり、人通りが多かった。今まで、この世界に来てからというもの、鶏男のような姿しか見たことがなかったため、人外がデフォルトなのかと思ったのだが、そんなこともないらしい。

 なんなら、人外のほうが少ないとまで言えるほどである。

 伸也はおなかが究極に減っていたため、いいにおいに誘われるまま道を彷徨い、ある一つの店の前で足を止めると、観音開きの木の扉を開ける。どうやらそこは居酒屋らしく、沢山の人が飲み食いをしながらわいわいはしゃいでいた。

入り口で多少グダついてると、後ろからガタイのいいおじさまみたいな見た目の人がが邪魔そうな顔をして言ってくる。


「入り口で止まんないでくれ」


後ろがつっかえていると、じゃあやめます。と言って踵を返すわけにもいかず、おずおずと店内に入出する。

後ろにいたおじさまのような・・・(以下略)の人がカウンターのような席に向かうのにならって伸也もカウンターの席に座る。

 しかし、待てど暮らせど、水が運ばれてくるわけでも、メニューを渡されるわけでもない。居心地の悪さを感じながらきょろきょろ周りを見ていると、突然酒を飲んでいると思われる大柄のおっさん数人に囲まれる。


「おう?お前さん見ない顔だな。どっから来たんだ?」

「なんだこの格好は?どこでこんな素材売ってるんだ?」

「てか筋肉ねえなよくそんなので今まで生きていけたなー」

「てかなにやってるんだ?なんか頼まねぇのか?」

・・・


酒が回っているためか、こちらのことを何も考えもせず、よりどりみどりの言葉を投げつけてくる。

 伸也は、その数多くの質問を全く知らない人達に、そして急に話しかけられたということによって脳がオーバーヒートしていた。

すると、


「おいおいちょっと。お前らこの坊主が明らかに困ってるだろうが。ほどほどにしてやれ。」


その野太い鶴の一声によって、伸也の周りを囲んでいたおっさんの動作がぴたりと止まると、その野太い声が発せられた方向を一斉に振り向く。

 伸也も、周りのおっさんたちに倣って同じ方向を向く。


おっさんの中の一人がつぶやく。


「こ、こいつは・・・」


時間にしては一瞬のことであろうか。しかしその一瞬の間に空気がひりつきなんとも言えない空気が流れた。


「???」


伸也が何事かとキョロキョロしていると、「ごくり」と誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。かと思うと伸也を囲んでいたおっさんたちが急に身を翻して元居た自分の席へと戻ってゆく。


「た、助かった・・・」


伸也は大きなため息とともにそうつぶやく。


「大丈夫か?坊主。」


そう声をかけられる。


「すみません。ありがとうございます!」


「いんやいいんだよ。俺も見てて気持ちの良いもんではなかったからな」


改めてその『野太い鶴の一声の人』を見る。そこにはつい先ほど入り口で見た顔がそこにあった。

 伸也はひとまず無言で上から下まで恰好を見る。

どうやらさっき絡んできた奴らよりはよい恰好をしているようで(絡んできた飲んだくれたちの格好が、荒くれ者たちのような、いわばお世辞には綺麗とは言えない格好をしているからかもしれないが…)一見品があるように見える。顔をまじまじと見ると、彫りが深く、ちょび髭がついているが、浮いているということもなく顔とマッチしている。まさしくtheイケメンのような佇まいだ。(伸也の中のイケメンに対するボキャブラリーの低さは見逃していただきたい。)さらには他人を助ける程の余裕まであるという、理想のイケメンを具現化したみたいな人だった。うーん。他人をほめるのってむずかしっ。

 そんなこんなでもの思いにふけっていると、どうした?という声がかかる。それに対して、なんでもないです。と俯きながら答えると、相手はまじまじ見られたことに何の感情を抱かなかったのか、伸也に質問を投げかけてきた。


「坊主、このあたりじゃ見ないもんだがこの町は初めてか?」


「はい、この町いや、です。」


言ってからしまった・・・と思ってしまった。今までは身内ともいえる、自分と同じ身分の・・・ってあれ?そんなこと話せる人なんかいたっけ・・・。

そう深く考える前に、相手から次の言葉を投げかけられる。


「なるほどな。とりあえず何か頼むか。何にする?」


そう言われて、自分の失言に相手の顔が機微していないのを見ると、気にしてないのかもしれない。そんな気分になって、考えるのをやめてしまう。

それよりおなかがすいた。もうおなかと背中がくっつきそうだ。さあ何があるのかなっ♪ 

半ばウキウキの状態で、メニューのありかを聞く。

そうすると、無言で後ろを指さされる。


ん?と思って壁を凝視するが、壁は壁。どんなに見ても文字のようなものは見当たらない。

これ以上待たせるわけにはいかないと思った伸也は、店員におすすめを聞き、それを頼む。


ーーー

「おまちどうさん」


そういわれて出されたのは傍から見れば普通の野菜炒め。食べてみるとシャキシャキとした歯ごたえにパリッとした触感のフルーツに近い甘みが合わさったものだった。聞くとどうやら昔からこの土地で親しまれる郷土料理らしい。


「にしても見ない服装だよな。ほんと」


食べながら

様々な質問をされ当たり障りのないように答えていく。

そのうち成り行きで話がとんとん拍子に進む。まるでゲームのチュートリアルをプレイしているかのように・・・


「じゃあお前にはおすすめの店を教えておく。そこでいろいろ揃えろ。」


「本当ですか?ありがとうございます!」


夜が更けていく。それに伴い店内の喧騒は収まる気配はなく、それどころか強まっていった。


「いろいろ揃えたら町で一番大きな家に来い。そこで俺は働いてるんだ。いろいろ紹介してやるぜ。」

ーーー





見知らぬところで、ステータスに新たな記載あった。



『文字認識、初級を解放しました。取得をお勧めします。 ※この世界における文字というものを認識できるようになる。読むためには中級以降を取得必須』








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