悪魔語り

冨田秀一

さくらマルファス  001 

さくらマルファス

001 


吾輩は、須崎蒼路である。友達はまだない…。なんて言うと夏目漱石の小説の冒頭を想起できて、痛さが少しはましになるだろうか。


高校では友達百人できるかな…なんて希望的観測をもつから失望するのであり、去年の僕は入学前してすぐにそんな甘い考えを捨てた。


最初から希望をもたなければ失望もしない。もしそんな甘い考えを持った中学生がいたら、鼻で笑って平手打ちをしてやるところだ。


僕は友達との生ぬるい慣れあいなど好まない。そんなものなくとも、僕には愛すべき家族と可愛らしい彼女がいればそれだけでいいのだ。


友達なんて別に望まないさ。たまに会う友達より、本当に大事なのはすぐ傍にいる愛する人達だ。下手に交流の枝を広げても、手の届く範囲しか守ることができない。


まぁ、僕の愛する家族は僕を愛してくれているか微妙なところだし、守りたくなる可愛い彼女もいないのだけれども…。


いっそ悪魔にでも、「可愛い彼女をください!」と願ってみようか。まさかそんなくだらない魔がささないこともなくはない。いや、絶対ないだろう。


一応、僕は悪魔には懲りている。悪魔に願うくらいなら夏目さんとこの猫くんの手でも借りた方がましだろう。


高一の夏休みに悪魔と関わってしまい、くだらない願いで寿命を半分ほど持って行かれた僕は、身をもってそう思えるのだ。


今日、三月二十日は動物愛護デーだそうだ。動物というならば人間だって動物だろう。今日は日ごろ頑張っている自分を愛護して、帰りにアイスでも買って帰るとしようか。


そんなことを考えながら歩く帰り道、突然と少女が…いや、パジャマ姿の女子中学生が僕の前に跳びだして来た。


一般の公道にて、野生の女子中学生が、パジャマ姿で跳びだして来る場面に出くわした人は、世界でも数少ないだろう。家の窓を開け、屋根を伝い、塀を利き足であろう右足で踏み切って跳び越えて来た。


思い切った踏切、そして素晴らしい着地、思わず拍手をしたくなる跳躍である。


ちなみになぜ中学生だと断言できるかというと、僕には一目で女性の年齢を判別できる特技がある。先に言っておくが、淑女諸君は僕の発言に引いてくれるな。紳士諸君は僕の眼力にぜひとも称賛頂きたい。


かなり長めの前髪、少し子供っぽいピンクのパジャマ、まだ幼い未発達な胸と尻、これ以上言及すると引かれてしまうから黙るが、間違いなく女子中学生と断定できる。少し病弱気味なのか、顔色はあまりよろしくない。そして一番目立つのは、耳に痛々しいガーゼをあて、包帯でぐるぐる巻きに巻き付けていることだった。

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