第2話 小説を書き始めたきっかけ(2)

 私がライトノベルを読み始めたのは中学時代からだ。

 うちの中学校には漫画はNGだったが、小説なら持ち込んでOKという不文律があって、ライトノベル(当時はそのような呼称はないが)はぎりぎりセーフという扱いだった。


 いくら運動部に所属しているといっても、もともと陰キャな性格だった私は昼休みなどの長い休憩時間が苦手だった。当時めちゃくちゃハマっていたMTGはさすがに教室では遊べなかったので、暇を潰す方法は読書しかなかったのである。


 が、私は別に活字が好きだったわけではない。むしろ、苦手な部類だった。私にとって読書とは漫画やゲーム関係の専門誌を指していた。


 しかし、昼休みに陽キャの連中と混ざってドッチボールに興じるなどといった性格改造をする気はまるでない。それなら自分にも読める小説を探したほうがマシだと判断し、本屋をぶらついていたところ、一冊のライトノベルと出会った。


 宣伝行為と思われるのもあれなのでタイトルは伏せるが、砂漠を舞台にした、刀を使う何でも屋の少女が主人公のSF小説とだけ記しておこう。ちなみに富士見ファンタジア文庫である。


 当時は第三巻まで発売されており、店員さんの趣味だったのか、おすすめコーナーにそれらが平積みされていた。どーんと刀を構えている主人公が嫌でも目に入ってくる。


 私は興味を引かれた。

 今でこそ男顔負けの強い戦闘女子は当たり前であるが、私の知る限りではあるが、その時代は非常に少数だった。ゲームでも女の子が戦う場合は魔法使いとか僧侶とか後方支援型がほとんどで、先陣切って戦うヒロインはとても目新しく映ったのだ。


 しかも、刀というのが良かった。

 当時から私は剣とか刀とか大好きだったのだ。中二病とか言ってはいけない。


 少し話は反れるが、私の母の同僚のお父上が刀鍛冶だった。

 その方は娘さんしか恵まれなかったようで、後継ぎ問題が解決しないまま高齢を迎えたので工房を畳もうとしていたらしい。


 ところが、私が刀が好きなことを母が話したらしく、同僚伝手に「うちの娘と結婚して後継ぎになってよ」と14歳にしてお見合いの話が持ち上がりそうになった。

 ちょっと漫画みたいな話である。さすがに断ったけれども。


 さて、続き。

 興味を引かれた私は思わずそれを手に取って、ぱらぱらと数ページ読んだ。

 ものすごく堅苦しい文体だったが、何とか読めそうだったので、MTGのパックと一緒にレジに持って行った。


 活字など、小学校の図書館で読んだズッコケな三人組以来だ。

 私は半日をかけて読み終えた。ストーリー、キャラクター、世界観。そのどれもがびっくりするほど自分好みだった。


 そうだよ、これ。こういうのが読みたかったんだ!

 現代小説とも児童文学とも違う、漫画的表現を文芸に落とし込んだもの。こんなものがあるとは知らなかった。


 それから私はライトノベルというジャンルにどっぷりのめり込み、結構な数を読み漁ったと思う。



 †††



 ――さて、そろそろ話を高校時代に戻そう。


 友人Sからの言葉で漫画への拘泥を捨てた私は、自己表現の新しい手段として小説を書こうと思い立った。ライトノベルであればそれなりに読み込んでいるという自負がある。それだけの選定理由だった。なんと浅ましい。


 それを友人Sに告げると、

「あ。じゃあ、俺も書くわ」と一緒に書くことになった。


 二人とも推薦枠を勝ち取って受験戦争を回避していたので、他の生徒たちと違って自由な時間があった。

 私と友人Sは互いに締め切りを定め、その時までに一本の短編を書き上げることを約束した。期間はおおよそ二週間ほどだったと思う。


 初めての執筆作業は、当たり前だが難航した。

 書きたいストーリーはぼんやりと頭にあるのに、それが言葉として出てこない。

 背景描写はこんなものでいいか。心理描写はどれくらい書けばいいのか。そもそもこれって面白いのか。一人称と三人称の区別もつかない。散々悩みながらも、二週間をかけて私はどうにかこうにか形にすることができた。


 そうして生まれた白武士道の処女作が「碧落の境界線」である。

 コードネームはポスター。

 というか、当時はポスターというタイトルだったので、ポスターが正式名称なのだが、一時期シリーズ化していたのでこの表題で通している。


 絵描きの夢を一度は挫折した青年が主人公。

 彼が、かつて自分が描いた一枚のポスターに心を救われた少女と出会い、今度はその少女によって心を救われ、もう一度、碧落とおいところを追いかけるというもの。


 今思い返すと、清々しいほどの自己投影と自己憐憫である。

 ちなみに碧落には青空以外に、遠いところという意味があります。


 同じくして友人Sも問題なく完成させたので、互いに読み合った。

 読み終わった後、友人Sが私に言った。


「――俺は物語を書ける人間ってのは特別な存在だと思っていた。それが、こんな身近にいるとは思っていなかったよ」


 友人Sの素直な称賛を受け、私は「これだ」と確信した。

 やはり私は、私の考える面白いを相手に伝えることこそを求めていたのだ。

 

 その日から、私は小説家を目指そうと決めた。


 ……でもさあ、友人Sが書き上げたやつのほうが明らかに面白かったんだよなー。

 新しい一歩を踏み出した瞬間、やっぱり上には上がいると思い知らされた私の気持ちがわかる?

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