第10話 13日の金曜日

今日は金曜日だ。5月13日、13日の金曜日だが快晴で何かいいことが起きそうな予感のする朝だ。



昨日母さんからラインが来た。



「愛日、近江、栗、いつも寂しい思いさせてごめんね。特に近江には、家事を押し付けちゃってごめんね。2週間後には多分帰れるから。3人ともいつも本当にご苦労様。生活費と少しだけだけど、お小遣い振り込んどいたわ。近江も今日は家事を休んで、3人で何かおいしい物でも食べに行っておいで。


母より」



 携帯で口座を見てみると、いつもの生活費とどこが少しなんだと思うくらいのお小遣いが振り込まれていた。



 さすが売れっ子作家だ。母さんが頑張ってくれてるおかげで、僕たちは何不自由なく生活できているのに、家事の一つや二つくらいで文句を言うのは恩知らずにもほどがある。




 昨日はどこに食べに行くかを僕が決めさせてもらった。僕は基本的に外食はお姉ちゃんや栗に行き先を任せているのだが、今回は行きたいところがあった。




 郷子さんが新しく始めた洋食屋さんだ。郷子さんは僕たちが大きくなったのを機に、うちのホームシッターを辞め調理学校に行ったそうだ。ずっと洋食屋さんを開きたかったらしい。



 調理学校を卒業後、5年間ホテルの厨房で修業をし、今年のゴールデンウィークに念願だった自分の店を開いた。




 本当なら開店祝いに、開店日に行きたかったのだけど、母さんが帰ってからみんなで行こうという結論になった。ただ母さんが帰ってくるのは、再来週だし、さすがに開店から1か月もいかないのは失礼だろうと思い、郷子さんのお店に行くことになった。




 ということで今日はなかなか楽しみなのだ。郷子さんに会うの自体、久しぶりなんだ。おそらく年明けに挨拶に行った以来、一度もあっていない。




 ここだけの話だが、郷子さんは僕のあこがれの女性なのだ。きれいで優しくて家庭的、母さんも美人だけど郷子さんには人をほっとさせるような魅力がある。




 ウキウキしながら朝食を準備し、栗を起こす。今日はいつにもまして機嫌が悪そうだ。



 昨日も、郷子さんの店に行くことに賛成はしていたけれど、少し機嫌が悪そうだった。そりゃあたまの外食なんだから、洋食じゃなくて別のもの食べたかったのかもしれないが、たまには僕のわがままも聞いてくれよ。






 栗の機嫌は無視し、さっさと朝ご飯を食べさせて学校に送り出す。今日はいつも以上に朝ご飯を食べなかったら、スプーンであーんで無理やり食べさせた。



 ご飯を食べ終わるころには、血圧が上がってきたのか少し機嫌は直ったみたいだ。



 僕も急いで準備をし、学校に向かう。今日のお弁当は少し少なめだ。せっかく郷子さんのお店に行くんだから、おなかを空かせていきたいのだ。



 スカッと晴れた空で、自転車を少し汗ばみながら漕ぎ進める。何だか夏の訪れを感じる日だ。



 きっと今日はいい日になる。ジェイソンは日本にはいないのだろう。思わず鼻歌を歌いながらいつも通学路を進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る