第14話 メッセージを伝えるように

 戦乙女クランの建物出入り口を守っていたティナから話を聞いて、僕が討伐任務と後輩に指導を行っている間に何が起こっていたのか、という事はある程度把握できたが、まだまだ分からない事だらけだった。


 騒動を起こしている首謀者達だと思われるのはドラゴンバスターとフレーダーマウスの2つのクランメンバー、彼等が戦乙女クランを襲撃してきたり街で暴れている。まだ目的や動機は判明せず、謎のままだった。


 これはレオノールを探しに行って彼女と合流するべきか、むやみに動かず拠点で待ちながら騒動に対処するべきか迷っていた。すると、クラリスが拠点に戻ってきた。


「ギル様、仕事を終えて戻っていたのですね。ちょうど良かったです」

「うん、ついさっき戻ってきたよ。それで、ちょうど良かったって?」


 猛スピードで駆け抜けてきたクラリスは、拠点の出入り口前で急ブレーキをする。ズレてしまったメガネを掛け直しながら僕を見据えて言った。何やら伝える事があるようだった。


「ティナも居るなら、ちょうどいいから一緒に聞いて」

「うん、どうしたの?」


 クラリスは僕の側に立っていたティナも呼んで、説明を始めた。


「私はレオノール様からギル様にメッセージを伝えるように頼まれたので、一旦拠点に戻ってきました」


 レオノール本人が戻ってこないのはどうしてだろうか、と疑問に思った僕の表情を読んだのか、クラリスは補足して説明してくれた。


「レオノール様は、只今ドラゴンバスターのクラン拠点に居ります。そこで、騒動の後始末を行っている最中で手が離せないので、私が代わりに伝言を預かって拠点へと戻ってきました」

「なるほど、それで原因は何だったの?」


 僕が話の先を促すと、クラリスは懐から羊皮紙を取り出し開いて確認しながら話を進める。あの羊皮紙に今回の出来事について詳細が書き記してあるのだろう。


「今回の王都襲撃を行ったという首謀者は、ドラゴンバスターとフレーダーマウスのクランマスター2人でした。そして、その原因は魔核です」

「魔核?」


 突然に魔核の名称が出てきて、なぜ今回の騒動の原因となるのかが結びつかず僕は疑問を抱いた。クラリスは説明を続けた。


「はい。王国から捜索の依頼を出されていた魔核という物質が原因でした。どうやらドラゴンバスターとフレーダーマウス2つのクランは、既に発見して王都にある自分たちの拠点に持ち帰っていたようです」


 少しだけ噂でも聞いていたけれど、彼等のクランは既に魔核を見つけ出していたのかと納得をして頷く。だがまだ、騒動の原因となる理由がわからない。


「実は魔核には、モンスターを突然変異させたり生物の体調を悪くさせるという他にも、どうやら人間の精神を変異させる、という作用があるようなんです」

「人間の精神を変異させる?」


「そうです。今回の騒動の原因となった魔核、王都に持ち込まれたソレはフレーダーマウスの拠点に保管されていたらしいのですが、保管されていた魔核に悪影響を受けたクランメンバー達が正気を失って、街中に飛び出して暴れていた、というのが騒動の真相のようです」

「魔核の影響で所属しているクランメンバーの精神がおかしくなってしまって、街で騒動を起こした、という事か」


「はい。その通りです」


 魔核が、そんな悪い効果をもたらすとは知らなかった。そんなに危険な物質だとは考えていなかった。今にして考えるとレオノールが今回、依頼を避けようとしていた理由、彼女の勘は今回も当たっていたのだろうと思う。


 そんな事を考えていると、クラリスは魔核についての説明を付け加えた。


「それから魔核には、特に男性に大きな影響を与えて精神のバランスを崩す、というような悪い効果があるようです」

「!? ……それは」


 彼女の話を聞いてヤバいと思った。横に立って一緒に話を聞いていたティナから、僕の表情を伺うような視線を感じる。

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