【未完】転生エルフは魔法使い~価値観あべこべの変わった世界~

キョウキョウ

第1話 エルフはクビになった

 久しぶりに外に出ると空から降り注ぐ暖かい光が身体に当たり、それだけで気分が晴れ晴れした。手をかざして空を見上げると、お日様が憎たらしいほど元気に輝いている。最近ずっと研究室に籠もりっきりで外に出てなかったから、いつもよりも太陽の光が明るく見えて目に焼き付く。フードを頭にかぶって、日よけに使う。


「さぁて、これからどうしようかな?」


 つい先ほど、長年勤めていた王国が運営する魔法研究所の研究員という仕事を突然クビにされたばかりだった。研究所を追い出された僕は目的も行く当てもなく城下町をただ歩いていた。


 外に出るのが1ヶ月ぶりだったし城下町に出てくるのは半年ぶり。引きこもり体質のエルフらしい生活を送っていた。


 クビを言い渡されたのは本当に突然の出来事だった。研究室の上司が、アポもなく押し入ってきたと思ったら後ろに女兵士を2人連れていて、その上司の口から事前の知らせも無かった解雇を言い渡される。


「今日限りで貴女はクビです。即刻この場から立ち去りなさい」

「は? ちょっと待ってください。僕をクビにする理由は?」


 意味もわからず、なぜ僕が突然クビなのか説明を求めてみたけれど答えは聞けず、今すぐ研究所から出ていくように命令されてしまった。


「問答無用です。命令を聞かないのなら、この兵士達に追い出させます」

「……」


 言うことを聞かないと、僕は屈強な女兵士に力づくで研究所を追い出されることになるそうだ。納得できないし、僕も反撃してやろうかとも考えたが面倒なので無抵抗で女上司の指示に従うことにした。


 そして僕は今、研究所から追い出されて城下町を歩いている、という訳だった。


「せめて、研究を完成させてから追い出されたかった」


 半年前から続けてきた研究の成果、王都防衛用結界魔法がようやく完成間近だったというのに。せめて完成させてから、出ていく訳にはいかないか交渉してみようとも考えたが、向こうは全く聞く耳を持たない感じだったし言っても無駄だっただろうと諦めてしまった。



 全く意味も分からないうちにクビを言い渡され追い出されて、イライラする怒りが込み上げてきたけれど町を歩いているうちに気分も落ち着いてきた。よくよく考えてみると、僕にとって魔法研究所に所属している意味が既に無くなっていたから。


 最近は惰性で魔法研究所に所属をして魔法の研究を続けていただけ。なので解雇を言い渡され強制的に研究所を出されたのは、この場所を離れる良いキッカケだったのかもしれないと思い直した。この国に来てから、もう既に数十年も経っているから。新天地へ向かうには、ちょうどいいタイミングだったのかもしれない。


 コレから、新たな生きる目的を探す旅に出よう!


 気分を変えて旅に出ようと決意したのはいいけれど、問題なのは着の身着のままで研究所を追い出されたということ。研究で使っていた資料や様々な道具はもちろん、生活で使っていた物が全部、研究所の中に置きっぱなしだった。あの場所に僕は籠もって一日中ずっと過ごしていたから、既に住処でもあった。


 今から戻って生活用品だけでも取ってこようかな。でもたぶん今から荷物を取りに研究所に入ろうとすると、侵入者と判断され犯罪者として捕縛されるかもしれない。その可能性は非常に高かった。


 魔法研究所には、王国の研究員達が長年研究をしてきた数々の魔法に関する機密が有るので、関係者以外は侵入しただけで死刑などの非常に重い刑を科せられる場合もあった。


 僕にとっては誰にも知られること無く魔法研究所に侵入して荷物を取りに行く事は簡単だけど、万が一にもバレた時に起こりうる状況や犯罪者としての烙印を押されるかもしれない面倒な事を考えると、そこまでして必要な道具や荷物等は置いていなかったはず。だから、研究室に置いてあった物は全て捨てたとして考えることにした。


 僕は荷物の回収を諦めることに。一応、貴重品等は空間魔法で大事に収納してあるから大丈夫だったので。


「それじゃあね」


 久しぶりの外で、しばらくぶりの風を肌で感じながら頭のフードをかぶり直した。立ち止まって先ほど追い出された魔法研究所がある城の方角をチラと見た後、別れを告げて視線を街へと戻し、再び前に向かって歩き出す。


 今後の予定を考えながら歩く。とりあえず、城下町を抜けて城門をくぐり森の方へ行ってみようと考えていたら懐かしい物が目に入った。


 冒険者ギルドへようこそ!


 デカデカと掲げられたソレを一目見て何の建物か分かるようになっている、一切の飾り気がない看板を見て懐かしい気分が蘇った。


 数十年前に僕が初めて王都に来た時に、最初に入った建物というのが冒険者ギルドだった思い出。


 ここにある冒険者ギルドで冒険者として登録した僕は、生活費を稼ぐために依頼を受けてモンスター駆除の仕事や、ダンジョン探索を続けてお金を稼いでいった。ごく短期間だが冒険者として活躍していた時期がある。


 しばらく冒険者としての生活を続けて数々の仕事をこなしていると、大魔法を使う冒険者としてちょっと有名になっていた僕。しばらくして、王国の魔法研究所の所長からスカウトをされた。


 研究所での仕事のほうが稼げるようだったので、スカウトを受けて冒険者をすぐに辞めたあと、研究員に職業をクラスチェンジしたのだった。今度は逆に、僕が冒険者に戻ろうかな。


 それがいい! という風に良いアイデアを閃いた僕は、昔から変わっていなかった看板を掲げている建物に入ることにした。数十年前と同じようにして、バンと大きな音を鳴らすぐらいの豪快さで扉を開け放った。

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