読者代表さまのこと

いまさらですが、わたしは物語を書いてます。


物語を仕上げるためには、ストーリー展開の裏付けをとるのに資料を探したり、現地まで行ってみたり、無駄な展開がないかとかをアレコレ考えたり、推進力にあたるものを作ったり、細かな表現の演出方法を練ったりとか、文章を書くこと以外にもいろいろとやることがあります。

文章を書くこと以外にも…っていうより、全体の作業時間の中で文章を書いている時間はそんなに多くないです。

わたしの場合は、たぶん1割もないと思う。

書くだけなら、10万字書くのにだいたい20日かかりますが、その10倍くらいの時間を考える時間に費やします。


わたしは創作が大好きなので、全部の作業が楽しいです。

…が、ひとつだけ苦手な作業があります。

苦手な…というか、わたしにとって一番エネルギーを使う作業です。


それは、読者さまの目線を考えること。

自分が書いて読んで楽しむだけなら必要がない作業なんだけど、公開を前提とすると、かならず必要になってくる作業です。


ネットで公開する以上、どんな方が読まれるかわかりません。

「これを書いたら傷つく方がいるだろうか…」

「この表現は非常識か?」

とかを、公開する前にはものすごくチェックします。


ストーリーの展開も、ネットで公開する以上、読んでくださるのはわたし以外の方になります。

「初めて読んだ方にとってわかりづらくないか?」

「ちゃんと面白い流れをつくれているか?」

とかを、精一杯考えます。


物語のなかの登場人物の感情を考えるよりも、公開後の読者さまの目を考えるほうが、間違いなくたっぷりと想像力を駆使します。

書いた本人は何度も読んだからわかってることを、知らない人、初めて読む人になりきって読み返してチェックするんです。それも、何通りかのパターンで。

楽しんで欲しくて書いてるのに、どなたかを傷つけたくないですから。


ただ、これが大変なんです。

しかも、わたしが大好きな創作とは別次元の作業です。


だから、書籍化の話をいただいた時に、まっさきにわたしがしたのは、いつも読んでくださっていた読者さまへ助けを求めたことでした。


というのも…。

わたしは、無いほうが読みやすいと思ったら、ちょっと良さげなシーンだろうが、容赦なく削るほうです。

でも、連載を続けてきていると、書いてる本人のわたしと、読んでくださった方のツボが違うなって感じることが少なくなくて。

としたら、わたしの「要る」と、わたし以外の「要る」が違うはずなんですよ。


お願いした方は、『雲神様』の連載中から、更新するごとに丁寧な感想を送ってくださった、ありがたい読者さま。その頃からずっと、わたしの心の支えです。

いつも見守ってくれる、心のオカンのような読者さま。

ですので、その時も甘えて、お願いしました。

「お願い! 読者代表になって! 読み返して、面白いと感じるシーンを教えて! ちょっとおかしいなってところも教えて!」

うん、ごめん。。

「読み返せ」だなんて、本当に迷惑な話です。

引き受けてくださった読者代表さま、ほんとにありがとう!


その方は、しっかりチェックしてくださいました。

「このシーンが特に好き」っていう部分も教えてくださって、「要る」じゃなくて「好き」なシーンっていうのが、わたしにはわかりづらいので、本当に助かりました。

あったとしても、字数の都合で「要る」と思ったシーンと「好き」なシーンのどちらを削るかってなったら、ついつい後者を削除してしまうからね。

読者が「好き」なシーンなら間違いないです。残すべき。


そして、怒られました。

「どれも必要なエピソードだよ。ここは登場人物の人となりがわかっていく大事なシーンだし、そっちも大事で…どうして削るの」

頭がガツンとやられた瞬間でした。

なんかね、登場人物たちの心の声を代弁してくれたみたいな。

その方のなかではちゃんと登場人物たちを生かしてもらっていたのに、わたしは監督に徹しすぎて、ちょっと酷い扱いをしようとしてたことに気づきました。

そうだよね、機械的、合理的に物語を組むだけだったら、いろんなことを見逃してしまうよね。


面白さって、言葉ではなかなか説明できないじゃないですか。

その説明できないものを、説明でどうにか組もうとしちゃいけないっていうのも、気づかされました。

そうだね、わたし、書籍化っていう状況に怯えて、なにかを見失ってた。

…と、気持ちも新たに改稿作業にとりかかったのでした。

面白い作品に仕上がっていますように。


読んでくださる方は偉大です。

そして、ありがとう!

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