第54話「噛み合わぬ両者」
「お前の言いたいことはよくわかった」
上村の勢いに
「そう。何か反論があるようなら聞くけど?」
上村も落ち着いた調子で、しかし人の悪い笑みを見せながら答える。
壁掛けテレビに映る竜星戦では、読み方のわからない中国出身と思しき棋士が、
「別に、何も。どう思おうが、お前の自由さ。肯定も否定もする気はない」
「悦弥さん……」
私のあっさりとした返答に、小森が
「反論するだけ、時間と労力の無駄だからね」
上村のほうを向きながらも、小森と浅堀に伝えるように言った。
「はぁ……キミは昔から変わってないねぇ」
上村が、先ほど披露した海外ドラマ式ゼスチュアを見せる。
「そうやっていつも人を馬鹿にして、議論や対立から逃げて、自分が一番賢いかのように振る舞うところ、小学生の時のまんまだな。まったくあきれたものだよ」
彼の言葉を聞き、思わず嘆息をもらした。
「悪いけど、それ、逃げてるって言わないから。低次元な連中と同じ土俵にいても、会話にならないんだよ。首藤然り、お前や有馬や高杉のようなくだらないクラスメイト然り。だから、僕は僕なりのスタンスでやるべきことをやってきたんだ。それが理解されなかったというだけの話だ」
昼休憩時にロキソニンを服用してましになっていた頭痛や怠さが再発してきたように感じ、私は右手の指先で側頭部にふれながら無意味な説明を述べる。
「だから、そういう考えが間違ってると言ってるんだよ。お前は何様だよ? 全知全能の神にでもなったつもりか?」
「神でなくとも、酷いものを酷いと判別するぐらいのことはできるさ。高い金もらってるくせに漢字ひとつまともに読めない与党の議員共が馬鹿だと、
「はぁ……嫌だねパヨクは。どうでもいい揚げ足ばっかり取って、本質を見ていないんだから」
「なんか違うリアクションないのか? それもう見飽きたわ」
本日三度目の海外ドラマ式ゼスチュアを受け、揚げ足を取るように指摘する。
「話を戻そうか。ボクの意見に反論がないってことなら、福祉がブルーカラーの底辺職だってことを認めることになるわけだけど、それでいいんだな?」
私の嫌味にも慣れた様子で、ほんの一瞬だけ眉をひそめるも、上村はすぐに切り替えて話の続きを展開する。
「勝手に言ってれば」
さすがに「自分もそう思う」と口にするのは気が引けた。
「あぁそう。そういえばさっき言い忘れてたけど、ひとつ面白い話があるよ」
この男の言う"面白い話"など面白いはずがない。上村の様々な言動に対して、私は一度たりとも笑みをこぼした記憶がない。
自分自身にさしたる魅力もユーモアもないものだから、他人を出しに使うことでしか個性を表出できないところも相変わらずなものだ。
スマートフォンを開くと、十六時八分と表示されている。
ホーム画面に写る古内東子のセクシーなドレス姿を
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