第31話 理想と現実

残すところ、今回の教室を入れてあと2回。


今日は、療育教室の後、少し先生に保護者からお話させてもらいたいことがある……という事で段取りが決まっていた。

最初の第一声は 私が担当だった。



「それではみなさん、さようなら……」


と、いつもの挨拶が終わった時、私は先生方に向かって大きな声で「あの、保護者から先生に…お願いしたいことがあります。。」


と声を出した。


先生方はびっくりされてたけど、ちゃんとずっと最後まで聞いてくれた。


私たち親子を、どうか何かの形で支援継続させてもらえませんか?

市外組は、地域に戻れば今のような支援の継続は難しいのが現状です。

せっかく、少しずつ前を向いて子育て出来るようになってきました。


どうか、どうか…方法はありませんか?

教えてください。

必要ならばどこへでもお願いに行きますから…………



先生方は、ただただ、ずっとうなずきながら、そして涙を流しながら私たちの話を聞いてくれていた。。


そして

「泣いてごめんね、お母さんたちの思いがとてもとても嬉しくて、とても伝わってきて本当に嬉しくて、嬉しくて

……

でも…………難しい…………。悔しいけど、難しいんよ。。

でも、お母さんたちの気持ちは伝えておくよ。本当にありがとう。そう言ってくれてありがとう。。。」


最初から、ダメだろうと覚悟はみんなあったので、ガッカリはしたけど、ショックはさほど大きくはなかった。


ただ、先生が号泣されるのは予想外だった。


そんなにポロポロと涙を流されて…

ありがとう、ありがとう、嬉しい…と。

でもできない、悔しい。。と。


そんなに泣かないでください。。


みんなそれ以上は何も言えなかった。

抗議もできなかった。



半年前、ここにみんなが初めて来た時、たぶん子育てに、自信がなく、途方に暮れ、我が子に関わる術が分からず……その分からない子育ての毎日に疲れ果てて…きっとみんな親としての自信を失っていたと思う。


それが、半年経った今、先生に食い下がってでも支援継続のためなら何でもする!という私たちの姿を見て、やはり嬉しかったんだと思う。



その時は、先生の涙の深い意味は分からなかった。

でもきっと半年間、頑張ってきたのは私たち親子だけでなく、先生も同じで必死だった。

半年という限られた期間しかない私たち親子のために一生懸命だった。


先生にとっては、子供の成長だけでなく、子育ての主役である私たち親の成長も とてもとても感じる事ができた瞬間だったのかなと振り返る。。


でも……支援継続は無理。

現実は厳しい。


でももう悩む暇はなく…地域に戻り、その中にある、あらゆる選択肢を探そう。

子どもは日々成長を続けてるんだ。

立ち止まっていたらもったいない。

この子の先のために、今できる考え得る最大限のことをやっていこう。


頭の中の思考が素早く切り替わった。


そして、来週、最後の教室。

しっかり悔いのないように終わろう。


私は半年前より少し強くなっていた。






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