3-3 「ポルノの性犯罪抑制効果」に関する誤り:基本編

 前項では、ポルノに限定的な悪影響があることを確認した。

 だが、本論を読んでいる読者の多くは、前項の議論に違和感があったのではないだろうか。ネット上では、ポルノが性犯罪に悪影響がないことが確定事項のように語られているからである。


 しかし、これは不十分な研究に基づいた誤った解釈である。

 具体的な論文を挙げる前に、共通するところを説明しよう。


 ポルノと性犯罪が関係ないと論じた大半の論文は、ポルノの流通量を何らかの指標で数値化し、その変化と性犯罪の認知件数とを比較するという検討によって結論を下している。が、このような検討は不十分と言わざるを得ない。


 なぜなら、性犯罪に影響を与える要因はポルノの流通量だけではないからである。経済状況や法律の規定、警察官の姿勢、社会の風潮などが影響する。そのような影響を考慮しないまま、ポルノ流通量と性犯罪を比較しても、疑似相関にしかならないだろう。


 つまり、ポルノ流通量と性犯罪の間にあるほかの要因を、これらの研究は見落としている可能性がある。一見、ポルノ流通が性犯罪を増やしていないように見えても、実はほかの要因がポルノ流通の悪影響を潰しているだけということは十分考えられる。


 もちろん、研究の端緒を掴むうえでは、このような相関研究も重要である。しかし、そこで得られた関連はあくまで相関であり、因果関係が確かにその通りであることを確定するには実験を経るしかない。


 加えて、些末ではあるが、各変数が実態を捉えているかという点も疑問がある。

 その最たる例が、性犯罪の認知件数である。一般に性犯罪は通報率が低く暗数が多いと言われる。このような犯罪の認知件数、つまり警察へ届けられた件数が変化しても、それはあくまで警察に届けられた件数の変化であって、社会での発生件数は変化していないということが考えられる。


 また、ポルノの流通量の指標にも疑問符が付く。ポルノと定義された雑誌だけで実態を反映できるのか、流通量が読まれている量を反映するのか、そもそもポルノ販売が禁止されていた時期を「男性が一切ポルノを見なかった時期」と扱ってよいのか(違法なポルノが大量に流通しているというのはいかにもありそうである)など、疑念は尽きない。

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