代理謝罪スタート

 初めての代理謝罪をどうすれば良いのか疑心暗鬼になってしまった村崎だったが、代理謝罪の経験のある小西や佐鳥の話を聞いてこれからの代理謝罪に自信を持つことができた。今なら依頼された代理謝罪を上手くできる、そう村崎は思った。

 小西が作った今回の代理謝罪のマニュアルを手に携えて謝罪相手宅に村崎は向かった。もうここまでに幾度と同じところに訪れているがその中で最も胸を張って来れたと思えるくらいの代理謝罪に対する自信があった。

 代理謝罪に向けて謝罪相手宅を中心に移動して考えて電話してここまで辿り着いた。ここまでの苦労をして一つの代理謝罪を完成させていると考えると小西と佐鳥が行ってきたいくつもの代理謝罪がどれほどのものなのか、そして代理謝罪というものを産み出した小西がどれほど凄いのかよくわかる。

 村崎は小西や佐鳥から貰ったアドバイスを反芻してこれから行う代理謝罪のイメージトレーニングをして本番に向かった。インターフォンを押したのである。

 状況としては謝罪相手の孫である女性が買い物に出掛けるのを見届け、出掛けてから三十分程度時間を置いた。

 インターフォンを鳴らしてから暫くしてそれに反応があった。一応、二・三度チャイムを鳴らしたことはあるがそのときには家の中からがさがさと音がしたということしかなかったので反応があったという時点で完全な進歩である。

 インターフォン越しでの会話から代理謝罪は始まっているのでインターフォンに出てきたところで村崎の緊張感は高まった。

「心得として相手とインターフォン越しで話すときから代理謝罪は始まっているの。代理謝罪が成功するかどうかは初対面である謝罪相手のファーストインプレッションで決まると言っても過言ではない。だからカメラに顔が写るときから始まっていると思うべきだよ。」

 佐鳥のアドバイスが脳裏にヨギる。バックには強い味方がいるんだと実感させられる。

ワタクシ株式会社代理謝罪の村崎と申します。本日は依頼された謝罪をするべく訪問させて戴きました。少しの時間を頂けませんか。」

 村崎は佐鳥からのアドバイスを胸に持ってインターフォン越しでも気を緩ませることなく言葉を選んで口から出した。

「分かりました。悪い人ではないであろうということはよく伝わりました。玄関を開けるので少しお待ちください。」

 家に通すという話になった時点で代理謝罪をする第一段階は越えることができた。代理謝罪は次のフェーズに移ったのである。代理謝罪のメインはここからである。

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