最良の選択ってなんだ?!

『好きだよ(正直に答える)』


『お前こそどうなんだよ(質問返し)』


『っす、好きじゃないし(誤魔化す)』


正直に答えるって告白しないと誓ったからダメだ。何処かに僕が冴島を好きだという噂が広まり、告白しろという雰囲気にされたら困る。


質問返しをして西野が万が一「冴島が好きだ」と答えれば両思い確定じゃないか。二人にとっては最良の選択だが、それならば僕が同じ日々を繰り返している意味が無くなる。

これは最もバッドエンドに繋がる選択だろう。


残された選択は“誤魔化す”だけだ。

誤魔化しても話が逸れないかもしれない。もしかすれば「誤魔化すほど怪しいな〜」と変に勘繰られることも有り得る。


あぁぁぁもう時間が無い!

間をためればためるほど変な空気が増してくる。


「・・・す、好きじゃないし!!そういうお前こそどうなんだよ!!」


やってしまいました、僕。まさかのバッドエンドと(多分)ノーマルなエンドへのダブルタップ。そんなのありかよ・・・。


「ふーん。そうなんだ。」

西野の反応は想像以上に薄い。

その「ふーん」はなんだ。僕の悩みに悩んで選んだ言葉をそんな風に丸め込むなんて酷いじゃないか。後ろから西野の背中を叩きたいという衝動にかられた。

この無駄に広い背中が憎い!!


信号が青になるとまた西野は黙って漕ぎ出す。

さっきの質問は何だったのか尋ねる間もなく、とうとう家の前まで着いた。


「ここで合ってるよな?」

「うん。送ってくれてありがとな。」

「いや、俺の方こそボールぶつけてごめんな」


気にしなくていいと僕は言い、玄関のドアの鍵を開けた。


「あのさ・・・・・・」西野が語りだした。


「俺、冴島と小さい頃から一緒だったからさ」


「さり気なく自慢かよ」


「いや、そうじゃなくて。さっきの『お前こそどうなんだよ』って言う質問の返事だよ」


西野は律儀に返事してくれるみたいだ。


「アイツのことそういう風に思ったことがないんだ」


それは一周目でもう知りましたー。僕が冴島に告白したら恋心に気づいたってやつだろ?

もうおなかいっぱいだって。


「幼なじみっていいよな。仮に告白して振られたとしても幼なじみっていう関係は崩れない。ずっと近くにいた存在ってそんだけの出来事で揺らぐようなものじゃないんじゃねえの?それに比べて僕はもし振られたら(振られているけど)それで終わりなんだよ。友達という関係だってすぐ壊れるんだよ」


僕は言っていてハッとした。なんてことを口滑ってしまったんだとすぐに後悔した。


「やっぱり好きなんじゃん」

僕を見て二ヒッと笑う西野。また一本取られた。


「冴島と最近よくいるよな?」

「委員会が一緒だからだよ」

西野は物言いたげな感じだ。

「そー?冴島楽しそうだっけどな?」

「花が好きだからじゃない?」

「いいや、違うと思うよ。多分お前のことが気になってるんじゃない?」

は?何を言い出すんだこいつ。とてつもない怒りが湧いてくる。冴島が好きなのはお前なのに。どこまでも鈍感でイラついてくる。


「そんなわけないだろ!変な冗談は程々にしろよ!なん、なんで僕がこんな思いしなければならないんだよ!!!」


行くあてのない言葉を西野にぶつけた。西野にとっては意味わからないだろう。ぽかんとした表情をしている。


「なんかスマン。──じゃ、もう帰るから。お大事に。また明日な。」


そう言い残した西野はどんどん遠くなり、夜の冷たい空気と伴に悪い雰囲気は薄まっていった。


なんで選択肢が現れないんだ。ちゃんと頭で考えれば、落ち着いていればこんな風にならなかったはずなのに。


「また明日」って言ってたけど、僕の席明日あるだろうか。西野に逆ギレしてきた陰キャとか言っていじめられたりしないだろうか。

勿論、西野がそんなやつではないと知っている。

頭の中でありったけのネガティブワードが回り始め、不安な夜を過ごした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る