第8話 ショッピングモールにて

 一学期最後の期末試験を終えて。


 一人でショッピングモールに行って買い物をしている時のこと。


 今日は、本とウィッグのスペアを買うため、店の中の通りを歩く。


 普段通りに道を歩いている中、ふと目の前の視界から女の子の姿が現れる。そして、彼女が僕に気づいて名前を呼んだ。


「あっ!柳木君!」


 彼女に偶然と会う。


「どうして姫菜さんがここに……?」


 今の彼女の格好は、長袖の白いブラウスにミニスカートを履いて、ポーチを身につけている。


「これから、服を見ようと思うんだけど、よかったら柳木君も一緒に回らない?」


 このまま彼女と一緒に歩くのはいいが、横から僕の変装に気づかれるのが心配だ。


「柳木君……?」


「……ご、ごめん、ボーッとしてた」


 とりあえず彼女にバレないように横を歩きながら一緒に見に行く。


 ここのショッピングモールは、休日になれば、平日と比べ、人が格段に増える。


「結構、人が来ているんだね」


「うん」


 ちょうど彼女と向かう先に到着して


「姫菜さんはここのお店に来たことがあるの?」


「ううん、来たのは初めてだよ」


 彼女が慣れているかのように振る舞うからてっきりこのお店の常連なのかと思った。


 ひとまずお店の中に入り


「この服似合いそうかな」


 彼女は、服を選ぶのに夢中になる。こうなると待つのがかなり時間がかかる。しばらく時間が経つと、彼女が服を持って、僕に尋ねて来た。


「ねぇ、柳木君はどっちの服が似合うと思う?」


 どちらも彼女の柄に合っている。どれか一つを選べとなれば、難しくなる。


「どっちもよく似合っているよ」


 ひとまずそう言った。


「ほんと!」


 そう言われた彼女は服についているハンガーを腕にかけてレジへ向かう。


「私のは終わったから、次は柳木君だね」


「……僕は服を買いに来るためにここに来たわけじゃないから、大丈夫だよ」


「そうなの?」


「うん」


 そうして彼女は服の入った袋を手にして、一緒に店を出る。


 お昼の十二時を回ると、ショッピングモールの中でご飯を食べることにした。


「柳木君はどれにする?」


「うーん……これかな」


 二人が座っている席は、一つの丸いテーブルに対面した形で座っている。


 はたから見れば、普通の高校生カップルに見える。けど、今の僕の格好からすれば彼女とは割に合わないだろう。


「ご注文のお客様は二名様で?」


「はい」


 早速、机の上に料理が並び、彼女はパスタを頼み、僕はグラタンを頼んだ。


「柳木君の分も味見していい?」


「え、あーうん…」


 彼女はそのままスプーンを手に取って、チーズグラタンに突っ込んで、口に運んだ。


「う〜ん!柳木君のも美味しいね」


 彼女に対して微笑をしながら


「よかったら、半分にして分けてあげようか?」


「あっ、でも柳木君はいっぱい食べなくて大丈夫なの?」


「僕はそこまでお腹が空いていないから、全然いいよ」


「それじゃあお言葉に甘えて食べちゃおうかな」


 半分に分けた取り皿を彼女に渡す。


 そして、彼女は僕がよそった分まで全部食べ尽くしたのだ。


「相当お腹空いていたんだね……」


 彼女の食べっぷりにびっくりする。


「ふう、美味しかった!」


 レジで会計を済ませて、店を出ると


「柳木君は他に寄りたいところとかはない?」


「あとは……特にないかな」


 実際は、ウィッグのスペアと本を買って早く帰る予定だった。しかし、時間が押してしまったため、今日はこれでひとまず帰ることにする。


「姫菜さん、僕はこれで帰ります」


「うん」


 彼女と僕は、駅が別々である。


「今日のところはありがとね、それじゃあ、また学校で会おうね」


 ショッピングモールを離れ、家に帰宅する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る