えぴそーど4♡扉を探して

「モナ?モナー?」

「おーい、モナってば」

「モナカ食べたいな〜」

「モナカさん?」

目の前で白いものが右へ左へ行き交う。

「ねーモナ!」

その白いものが二つに増え、私の頬を両脇から思いっ切りビンタした……。


「はっ!!」

「やっと気付いたか。朝からおかしいよ、あんた」

その白いものの正体は潤ちゃんの掌で、私の頬をがっちり挟んでいる。そしていつものように私の頬を挟んだり伸ばしたりして遊び出した。

「モナカさん、恋でもしちゃいました?」

目を細めてにやりとほくそ笑む潤ちゃん。

「潤ちゃん、未来部って知ってる?」

「ミライブゥ?新種の特撮番組ですか?」

「ほら、廊下にたくさん貼ってあるじゃん、手描きのポスター……」

「知らなーい、私は吹奏楽一本なので!」

「そういう話じゃなくて〜……」

ドヤ顔でふんぞり返る潤ちゃんに溜め息を吐いていると、隣で談笑していたあやめちゃんと笑(えみ)ちゃんがこっちを見た。

「あ、私知ってるよ、未来部!」

「私も〜」

「え、ほんと?」

普段あまり話す事のない私達は、珍しく四人で輪を作った。

「て言うか知らないって人の方が少ないと思うよ。」

「あんな目立つポスター貼りまくられてたらそりゃ嫌でも覚えちゃうよね〜」

「まさかモナちゃん、未来部入りたいなんて言い出さないよね?」

「えっ!?」

思いがけない言葉に、私は椅子から数センチ飛び上がった。

「まさかまさか!未来部なんてこっちからお断りだよ!」

私があまりにもオーバーリアクションだったからか、クラス中がしーんと静まり返った。みんなが私に視線を向けている。

そしてあやめちゃんと笑ちゃんが、口元を引き攣らせながら恐る恐る訊いてきた。

「モナちゃん、まさかまさか、未来部に行ったんじゃないよね……?」

半ば引き気味のあやめちゃん。

「え、えぇ!?」

「未来部に行くなんてそんなまさか、いくらモナちゃんでもないでしょ……」

ちょっと私の事馬鹿にしてない?笑ちゃん。

「いくら馬鹿なモナでもそれはないと思うよ……」

ちょっとちょっと、潤ちゃんまで!

「ねえ、モナちゃん!どうなの?」

クラス中のみんなに問われてるような感覚。みんなの視線は切実だ。

「クラスメイトが未来部に相談をしに言ったかもしれない」ってだけでここまで深刻そうな雰囲気になるなんて、ほんとに未来部って何者なの?





「はぁ、休み時間はどうなるかと思ったよ」

「はは、クラスメイトが未来部に行ったなんて言ってたらそりゃ大騒ぎだよ」

「潤ちゃん未来部の事知ってるんじゃん……」

「まさかモナの口から未来部の名前が出てくるなんて思ってなかったんだもーん」

給食をつつきながらいつものように話す私達。

休み時間は何とか「行ってない」って誤魔化したんだけど、もし行った事を正直に話していたらどうなってしまっていたんだろう……。

「月宮、もう未来部の話はしない方がいーぞ。」

「未来部ってほら、何?月雲一中のタブーみたいなやつじゃん」

「あんま触れてると政府(生徒会の事だけど)に消されるぞ〜」

男子達がふざけて笑う。

月雲一中のタブー?触れると政府(生徒会の事だけど)に消される??そんなにヤバイ部活なの!?

未来部とはもう関わりたくないって思ってたけど、そんなに有名でそんなにヤバイならやっぱりちょっと気になっちゃう……。


私は頭の片隅で、今日の放課後も未来部へ行こうと思い始めていた。





ホームルームが終わり、クラスメイト達が次々と教室から出ていく。私はあやめちゃんや笑ちゃんと手を振り合って、潤ちゃんと一緒に教室を後にした。

「じゃあね、モナ。あ、それと入部届けの締切明日だって。やっぱり吹奏楽入れば?」

「もうそれ七十二回くらい聞いたよ……」

「え?数えてたの?」

「適当だよ」

潤ちゃんに無言で背中を叩かれた。

「言っとくけど、未来部に入部したいなんて言い出すんじゃないぞー!」

「そんな事言わないもーん!」

別れ際にからかわれたけど、私は間髪入れずに言い返してやった。

「未来部には入部しない。ただちょっと覗きに行くだけだもん」

自分にそう言い聞かせて、私は階段を駆け上がった。

背後に、誰かが着いてきているのにも気付かずに。


二階に上がると、未来部の部室がある。

気付かれないようにそっと中を覗いてみる。

「あれ……」

部室の中には誰も居なかった。

それだけなら普通なんだけど……。

「あれって、血……だよね?」

部室内にある机に、血のような赤い液体を拭き取った跡がある。それに女子生徒の制服が二着無造作に落ちているのである。

「え、え、え?」

頭の中が混乱する。どういう事?誘拐事件?殺人事件?証拠隠滅???

「あーあ、見ちゃったかァ」

「え?」

誰かの声が聞こえた気がした。それもつかの間。


部室の戸が開く。頭上に腕のようなものが伸びる。そして私は誰かに思いっ切り背中を押された。

転がるように部室に入り込む私。そして戸が閉まる音がする……。


「!?」


目を開けると、そこはもう「未来部の部室」ではなくなっていた。

そこに広がるのは、桃色や水色、黄色が混ざり合う不思議な空間だった。

きらきら輝く星やハート、大きな月がぽっかり浮かんでいる。

上も下も前も後ろも右も後ろも全部ファンタジーな空間が広がっている。まるで浮いているみたいだ。もしかしたら私は今寝転がっているのかもしれない。もしかしたら逆立ちしているのかもしれない。

「ここどこよ〜」

取り敢えず歩いてみよう。そもそも歩けるのかどうかも怪しいけど……。恐る恐る足を一歩踏み出してみる。あ、ちゃんと地面の感覚がある!歩けるんだ。

何歩か歩いてみると、不思議な空間の背景もそれに合わせて動き出した。走ると星やハートがどんどん大きくなっていく。これ、無限に続いてる訳ではない……?


その時、遠くから大きな音が聞こえてきた。

何だろう、何かが壊れるような音……。

どこからだろう。これは、壁?壁の向こう……

「嘘、まさか」

腕を前に伸ばして走る。するとすぐにそこにぶつかった。

「壁だ……」

そこには壁があった。それならあるはず、どこかに「扉」が……!

何故壁があったなら扉もあるはずだと分かったのか分からないけど、私は扉を探した。

そしてそのうちに確信した。


「私、前もここに来た事ある……!」


手に、確かに感覚が残っていた。














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