第4話

 うつぶせでじっとしていると、びしょびしょに濡れた包帯が目についた。昼間にジョシュアが手当てしてくれたものだ。


「生きているうちに、誰かに優しくされるなんて思ってもみなかった」


 ミオは、そのまま地面に突っ伏す。


 素直にジョシュアの優しさを受け取れない。


 今まで散々、『白』を蔑む人間に、肉体も精神も痛めつけられてきたから。


 オアシスで体がすっかり冷え、やがて寒気を覚えた。


 天幕に戻らないと。


 いや、でも。


 躊躇していると、草を踏む足音が聞こえてきた。きっとジョシュアだ。


 背中に柔らかな感触を得た。涼し気な花の香りがする。


 ミオは、何かを言わなければと思った。


「……すごくいい匂いです」


 肩先で振り返ると、背中には真っ白なタオルがかけられていた。背後には、腰にタオルを巻いたジョシュアが跪いている。


 呟きに、ジョシュアほっとしたように少しだけ顔を綻ばせた。


 そして、ミオの腕を取ってくる。


 下半身を見られたくなくて前かがみになると、背中にかけたタオルをジョシュアが広げ、膝を折ってミオの腰に巻いていく。


 ジョシュアのつむじを見ていたら、裸で身体を冷やしてもらったことや、口移しで水を飲ませてもらったことなど一気に蘇ってくる。


「天幕に、戻ろう。ね?」


 促され、地面を見ながら後に続く。


 浜辺では、食事のために起こしたたき火が消えかけていた。


 砂漠の夜はかなり冷え込む。天幕の外で眠る砂漠の案内人は、たき火は食事だけでなく暖を取るのに大切なものだ。あとで乾いた木切れを拾ってこなければならなさそうだ。


 少し遅れて天幕に入って行くと、ジョシュアが腰のタオルを取って裸になっていた。


「失礼しましたっ」


と、ミオは叫んで後ずさる。


 先ほどは朦朧としていて気づかなかったが、見事な身体だった。


 手足が長いせいなのか、服を着ているときはそこまで大柄に見えない。だが、一糸まとわぬ姿のジョシュアは、胸の筋肉が発達し、太腿もパンと張って逞しい。


「あんな上等な身体を使って俺を」


 天幕を出て横手でしゃがみ込んでいると、夜着を身につけ終わったジョシュアが同じ物を差し出してきた。


「自分のがあります」


「さっきまで着ていたのは、汗でベタベタだと思うよ」 


 強引に手渡された夜着は丈の長い一枚のもので、広げるとまたふわっと花の香りがした。


 阿刺伯国にない滑らかな触り心地で、肌に滑らすだけでうっとりする。だが、ジョシュアの身体に合わせて作られているので、ミオにはかなり大きかった。


 天幕の中にランプが灯った。ジョシュアのトランクやミオの旅の荷物は、隅につまれてあった。

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