愛し君はこの腕の中

水澤ミチル

第1章

第1話

第一章


「もっと?」


 柔らかな声が降ってきた。


 瞼を開こうとしても、浅い眠りが邪魔をする。


 ひたっとした冷たい感触が全身に広がり、目を閉じたまま手を伸ばす。


 触れた物体をなぞると、張りがあって滑らかだった。


 これは肌だろうか。


 冷たく濡れていて、自分の熱い体温がそれをなじませてく。


「気持ちいい」


 素直な感想を漏らすと、額に優しい感触があった。


 ちょうど、最下層奴隷を示す模様のあたりだ。


 もしかしたら唇?


 生まれて初めて、いい夢を見たと思った。


 こんな自分に触れてくれる人は、現実には絶対いない。


 嬉しくて、相手の身体を夢中でまさぐった。


「もっと、水が欲しい?」


 言われてみれば、確かに喉が渇いていて、身体も燃えるように熱い。


 頷くと、身体にかかっていた重みがふっと軽くなり、張り付いていた肌と肌が離れる。


 途方もない寂しさを覚え、「待ってっっっ!!」と叫び声をあげ起き上がった。


 瞼を開く。


 眩しい光に目がくらみ一瞬、視界がぼやけた。


 月の光が湖面に反射し、天幕の中に差し込んでいる。湖面を囲むように、ベニアベスやアルジェリなどのヤシの木が見える。


 そうだ。ここはここはオアシス。


 砂漠の中に、忽然と湧く巨大な水たまり。


 ミオは、布が張られた頭上を仰ぎ見る。


 どうして、天幕がきちんと出来上がっているのだろう。布を張る途中で記憶が途切れているのに。


 視線を真正面に移すと、上半身裸の男がいた。ミオの腿の上に跨っている。明るい茶色の髪の毛がしっとりと濡れていて、水が滴っていた。


「ジョシュア様っ。ずぶ濡れじゃないですか」


 水の入ったグラスに口をつけようとしていた男は、目だけで頷く。ミオの身体もまた水に浸かったかのように濡れていた。


 火照る身体や互いに濡れた身体を見て、記憶が途切れている最中に何が起こったか察した。


「奴隷の分際で御面倒をっ」

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