第14話 夜中の2時頃の話ですから…

先を進むグモールのスピードの方が速いようで、影も形も見えはしない。

人を抱えているはずだが、怪力自慢なのだろうか。

やや開けた場所までやってきて、ヨォルが道の先を示すと古い城が見えた。


「ラハテイト公国の昔の大公が使っていた城だ。森の中にしては大きいのが建っているだろう? 帝国にある神殿から選ばれた大神官が公をやってたんだが、魔族に攻められて住民が全員殺されてからは誰も近寄らなかったんだが、そこを聖女たちが根城にしちまってな」


外壁は灰色だ。無骨な城だが、頑丈そうには見える。

開けた場所には集落らしきものもある。崩れた家屋がそこかしこに散っている。


「滅びて30年以上経ってる割には城自体はキレイだな」

「あいつらが掃除してるとも思えないが。敵の本拠地だ、気をつけろ」

「では『遺教・遠離』」


ヨォルの忠告にギャッソが文言を唱えると、白い光が周囲へと迸る。


「周囲に16匹、中には200人以上の反応がありますが」

「そんなに生きているのか?」


ヨォルが嬉しそうに叫ぶが、ギャッソは静かに首を振る。


「生体反応なので、人間か魔族かはわかりかねます」

「全部グモールなら話は簡単なんだが。リートンの爆裂魔法で瞬時に消し炭だからな」

「ねぇちゃんは本当に過激だなぁ」

「ねぇちゃん言うな!」

「アンタたち囲まれてるって自覚はあるのかしら?」


矢をつがえながらアムリが呆れたように肩を落とした。


「どうせお前がやっつけちまうだろうが」

「はいはい、承りました! 『精霊の息吹・風貫』」


アムリが矢に息を吹きかけ、弓で放つと矢は風を切って暗闇へと跳んでいく。

ぐ、ぎゃっと何かが呻く音とともにどさりと倒れる音が響いた。

だが、何人かは逃げつつこちらに向かってくる気配がする。

剣を構えながら、ギャッソを振り返る。

腕の中でリートンはまだすやすやと眠っていたからだ。


「リートン、起きろ。蛙どもが押し寄せてくるぞ」

「うーんん…眠たい…もう、蛙なんてどうでもいいよぉ。『トムナ第三節・爆炎武闘』」

「はあ? おい、こいつ寝ぼけて―――」


ギャッソの腕の中でリートンが杖を無造作に振る。白い魔法陣が浮かび上がり、ぼんぼんぼんと炎の塊が飛び出した。周辺の家屋や城に着弾したとたんに大きな爆発音が立て続けに轟いた。


「リートン、起きて! 違うものも爆発してるから!!」


アムリが慌てて叫ぶが、炎の塊は乱射され続けている。時間にして数十分ほどだろうか。


「ちびっこちゃんが過激なんだな…」

「中の人は無事でしょうか?」


壊れかけた家屋はすっかり消し飛び、開けた空間にディーツたちはぽつりと立っていた。目の前の城は半壊している。グモールらしき炭の塊があちこちに転がっていた。というか攫われた人間でないことを祈るばかりだ。このままでは大量虐殺犯にされてしまう。

多分に諦めを含めたヨォルのつぶやきに、ギャッソがのほほんと疑問を口にした。


「とにかくここは片付いたんだ、入ってみようぜ!」

「おバカ! 勢いだけで済まされないわよ」


すぱんとアムリに頭を叩かれたが、無視して歩き出そうとすると崩れかけた城から人がのっそりと現れた。

空に浮かぶ細い月の光を浴びて影から現れた長身の人物は白髪に近い銀色の髪をした男だ。


「こんなみんなが寝静まっている時間に何用だ?」


不機嫌さを隠しもせずに低い声で問いかけてきた。




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