第30章 絹代の生家

賀原絹代の生家は静かな田園風景の中にあった。


玄関には年老いた女性が出てきた。

何となく、あの母親とは雰囲気が違う…。


我々は客間に通された。


奥の部屋から父親が出てきた。すっかり歳を取り、部屋の中でも杖をついて歩いている。


仏壇の賀原絹代に二人で手を合わせる。


賀原絹代の写真の横に、奥さんの写真があった。


「奥様、亡くなられたのですね…。何と申し上げていいか、ご愁傷様です。先程の方は?」


「アイツが死んだのは7年前だ。その後再婚した。で、何の用?」


「賀原絹代さんと個人的に接点があった人物がわかりました。アルバイト先でコーディネーターをしていたニコライと言う人物です。絹代さんから名前を聞いたことはありませんか?」


「無い。」


「そうですか、お付き合いされていたとか、そんな話しも聞いてませんか?」


「無い。」


「そうですか。30年前ですもんね。」


「捕まえたの?」


「いえ、すいません。個人的付き合いがあった事が判明しただけで、犯人かどうかはわからないのです。

これだけ長い時間をかけてご報告がこれだけなんて、本当に不甲斐なく思います。

せめて、本人の携帯電話だけでも出てきてくれたら、何かしらの手がかりがつかめるのかも知れませんが。」


「あぁ、何も分からんのか。」


「当初、奥様からお聞きした携帯の番号から、通話履歴をお調べしましたが、入っているのはお父様、お母様の番号と、イディブレインの支部がいくつか。あとは大学の事務局の番号でした…。」


「うん。」


「爪の隙間に、犯人の痕跡でも残っていればよかったんですが、こうも周到に証拠を消されると、逆に異常性を感じます。服やバッグも何も見つかりませんでした。」


「…あんな黄色い服。」


「え…?何ですか?黄色って…。」


「あ、だから、絹代の服が…。」


「なぜ知っているのです?」


「それは……あんたらが言ったんだろ…。」


「我々はその服についてお話ししていません。」


父親の目が泳ぐ。


血が身体中を激しく駆け巡る。


「あの、アイツが、家内がそう言ったんだ。」


「奥様にもお話ししていません…。賀原さん、なぜ知っているのかを、話してください。どうかお願いします。」


長い沈黙の後、父親はぎゅっと目をつぶって、うなだれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る