第13章 国の政策

〜新しいプロジェクト〜


当時の日本の総理大臣は言った。


「国の宝である子どもは国が育てます。」


それが

【国による子育てプロジェクト】

だった。


日本は少子化が進みに進んで、政府は新しい政策を打ち出してきた。


女性達により多くの子どもを産んで貰うにはどうしたらいいのか?


長年、国は少子化に対して色んな策を講じて来た。

移民の受け入れ。

幼児保育の無料化。

しかし、そのどれもが出生率を大きく上げるには至らなかった。


かつて団塊の世代、と呼ばれた人々の殆どが鬼籍に入ると、それまでそこに費やしてきた年金を始め、医療費や介護福祉にかかっていた分を全て子育てに回すと言いだしたのだ。


今まで老人の介護に使われていた老人ホームは子ども達の保育所に変わり、働いていた介護福祉士も新たな試験で保育士へと変わっていった。


保育所としての機能だけでは無く、気軽に宿泊が出来るようにもなった。


これにより母親達は、小さな子どもが居たとしても、夜勤はもちろん、フルタイマー勤務も可能になり、海外出張をこなし、会社主催の懇親会、泊まりがけの研修会へも参加し、管理職に就くのも当たり前になった。たとえ夜であっても食事をしに出かけたり、お酒を飲みに行ったり自由に行動ができた。

外国旅行に行くのにも咎められる事はなかった。


国は、【子育てを国の専門家に任せる事で、より良い情緒と学習を身につけ、集団生活の中で、規律を守る日本人を育てます。】と謳っていた。


当然、親の愛情が必要だ。とか

親としての自覚はどうだ。とか


様々な意見が出て来た。

しかし、親の虐待により子供が死亡する事件は後を絶たず、【親で無くとも愛情をひとりひとりの子供に与えて、しっかりと国に育ててもらった方がいいのではないか。】といった意見も多かった。


今までも子ども達が育つ養育施設は数多くあったが、 【親に見捨てられたかわいそうな子供がいる所 】という差別的な見方をされる事もあった。


今回の国によるプロジェクトは、子ども達を国に預ける事は決して珍しい事ではなく、当たり前に利用できる新しい子育てのカタチだと発表された。


今まで、日本の多くの親達は、子どもに対して特別な愛情を注ぎ、大切に育てて来た。


それは時に、

「親なんだから夜遊びは厳禁」

「親なんだから料理は手作りで」

「親なんだから発言に気をつけて」

「親なんだから子供の事を一番に」

「親なんだから我慢」

と言った呪縛のような思考に陥る事もあった。


子育てをすでに終えた親達は、【子どもは成長する。時が経てば独り立ちをし、社会に出て行く。それまでの我慢だ。私達の頃はもっと大変だったのに、それでもやって来たんだから。出来ないワケないでしょ?】と言い放っていた。


しかし、子どもの事を一番に考える余り、親自らが自己犠牲をし、また、社会的にもその自己犠牲が美徳として捉えられる風潮がどこかにあった。


親による、躾と称した体罰を禁止をした改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立した事で、世の中には子供を叱る事を恐れた親達が溢れた。

親達は子育てに迷い、息苦しくなり、理想とかけ離れた現実に絶望して無気力になった。

子供を救済する取り決めばかりで親達の精神面が救済される事は無かったのだ。


そのため親であっても個人として尊重されるべきだ!との意見は支持された。


このプロジェクトは明るい子ども達の未来のためだから、と施行され、親たちは子供を気軽に預けて、存分に仕事をし、余暇を楽しみ、自由な時間を手にした。


子ども達が望めば18歳までそこに居ることが出来た。そこから学校に通い、施設にあるクラブ活動のようなもので音楽や英語、スポーツを楽しんだ。16歳なるとアルバイトをする事も許された。


子どもが三人以上いる世帯の利用料は大幅に免除されたし、ひとり親世帯は無料だった。



やがて、生まれてすぐに子どもを預けてそのまま会いに来ない親も現れ始めたが、育てる意思のない親に任せてネグレクトになるよりかはマシだと誰もが思っていた。


一部の親の中には可愛がりたい時だけ自宅に連れて行き、面倒な躾や教育は施設に任せてばかりの者もおり、まるで子どもが愛玩ペットの様だと揶揄され始めた。


それでも、子どもはやがて労力となる国の宝だ。


子育てに対して親の負担が減った部分は多いにあった。

子ども達は皆、もう一つの家を持ったような生活になった。


ひとり親家庭は利用料が無料だった為、シングルマザーには本当に重宝された。子育てに悩んでも保育士に気軽に相談できたし、子育てと仕事の両立が出来るようになり、就業率もあがった。


徐々に出生率は上がり始めた。


そしてこのプロジェクトは、別の現象も生み出した。

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