第8章

駅の監視カメラの映像には、賀原絹代が降りた駅と使用した出口のところまで映っていたが、その先がわからない。


白いコートを着た賀原絹代の写真を持って、駅周辺を聞き込みするしか無いようだ。


賀原絹代が降りた駅は他の鉄道の乗り入れも無い、小さな駅だった。周辺にはコンビニと居酒屋が数件、美容院やマッサージ店がある程度だった。


彼女が出て行った駅の南口周辺には、かつて日本が観光ブームに沸いた頃に建てられたビジネスホテルがまだ残っている。どのホテルも年数が経ち、すっかり少なくなった客を取り合っているようにも感じた。


この少しさびれた街のどこで賀原絹代はバイトしていたのだろう?


先輩が、


「俺が思うに、あんまり人に言いたくないバイトだったんじゃ無いかなぁ。」


と言った。


「風俗とかですか?じゃあ、あの容器は何です?」


「ホラ、知らん?色んな需要があるじゃん。例えばなんだ、唾液とか?色々。」


「あー。ありますね。そういうの。

学費を稼ぐって事で、お金に困ってたってのはありますし、無理してたんですかねぇ。」


「バイト先がグレーっぽい所だったら探すの大変だぞ。マンションの一室でやってたら、中々見つからん。管理会社だって、中で何してるかまで確実に把握出来てないだろう?風営許可取ってりゃ良いけどさぁ、どうかねぇ。店の前の道が写ってそうなカメラ、探すか。」


「コンビニですか?」


「あぁ、あとビジネスホテルとちょっと高そうなマンション。」


「わかりました。」


結局、コンビニの防犯カメラは画像の保管期間が短くて、データが残っていない店が殆どだった。

賀原絹代の写真を見せても、皆一様に覚えてないようだった。


マンションの方は、管理会社に辿り着くのが面倒で時間がかかるので後に回す事にした。


こうなるとビジネスホテルをしらみつぶしに当たって行くしかない。

メイン通りに面したいくつかのホテルを回ったが、映像の保管期間はせいぜい3ヶ月くらいで消してしまう。賀原絹代の姿を覚えている人もいなかった。


また、賀原絹代の足取りが消えてゆく。


その時、裏通りに小さくホテルの看板を見つけた。


「先輩、あっちにも有りますよ!」


「あ?マンションじゃないの?目立たんトコにあるなぁ」


小さな看板の矢印は更にもう一本裏通りを指している。


「コレ、ビジネスじゃ無いんじゃないの?」


そのホテルは年季の入った外観ではあったが、フロントは小綺麗で一応気を使っているのが感じられた。

70歳位の女性スタッフが笑顔で迎えてくれた。


警察手帳を出し、事情を説明する。

女性スタッフの顔から笑顔が消えた。

ホテルのスタッフは多少こういった事に慣れているようだった。

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