第2話 よもぎ餅男子 

誰か私の夫にティファニーのダイヤモンドの買い方を教えてくれないだろうか。


私は1ヶ月後に迫ってきた結婚式で、それを身に付けたいのだ。


遡ること1ヶ月前、そのブツのスクショを夫に送った、店舗が渋谷にあることも教えた。




しかし、私は、まだ、手に入れられていない。


紙袋から出したティファニーブルーの箱を見て、

目を見開いて、

彼と箱を何度も見直して、

口に手を当てて、


「嘘でしょ!?」って,まだ言っていない。







先に述べたように、私の夫は,超草食男子だ。


私以外の人と、まともに付き合ったことがなかったのだ。


中学生の時に公園でキスしたとか、高校生の時に映画館デートしたとか、雑誌に描かれている理想的な青春を味わっているにもかかわらず,夫にとって,女と付き合ったという経験は私だけのようだ。


私の巧みな作戦により、超草食男子の夫にお付き合いする際の告白だけはさせることに成功した。自分で言うのも何だが,それはそれは巧みにコトを運んだ。

私の誕生日は良い感じの景色に連れて行き,クリスマスは,「もうここで言うしかないんじゃない?」みたいな良い感じの公園に行き,それでも告白してこないことに非常に焦りはしたが,まぁ結果オーライだろう。


その時の彼の枕詞は、

「今まで告白したことなくて、どう言ったらいいのかわからない」だった。



私が超絶お節介なので、告白が成功させてしまった夫が,私にすることはもうない。行きたい場所、デートコースも、プレゼントも、全部私が決めてしまう。


それが夫にとっては、どうやらとても楽だったらしい。



しかし、まさか、結婚する前の夫が,夜景の見えるレストランだとかを予約するみたいな理想的なデートプランを一回も立てることなく、なんかこう私が喜ぶ顔が見たくて,その箱開けて見てみたいな展開が一度もなく,結婚まで行き着いてしまうとは、私は到底予測していなかった。




そして、今、どうしても夫にサプライズを用意してほしくて、もがいてしまっている私がいる。


まさかこんな気持ちになるとは思わなかった。


このまま私がお節介を焼きつづけて、私が夫とやりたいことを私が決めて、一緒にやってくれる夫のことを私だって楽だと思っていた。



ところが、なんかちょっと足りないのだ。



夫と夫の友人と食事をしたときに、


夫の友人に聞かれた

「結婚して何か変わった?」

に対して、


「何も変わらないよ」

と言った彼のことをそれでいいと思っていた。




変わらないままでいることがいいことだと思っていた。

変わらないままの環境を用意することがいいことだと思っていた。


日付が変わって帰ってくることは結婚前と変わらず当たり前で、終電で帰るよって、連絡だけすればいいと夫は思っている。


ちょっと何かが足りないのだ。




私は,きっと夫の覚悟を見たいのだ。

私を選んだ、夫の覚悟を見たいのだ。


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