第5話 仲間 -coworker-

 防衛ラインまで帰還し、任務の引継ぎを行うと僕らはつかの間の休息を取る。

 といっても僕自身は離れた基地にいる為、リンクを半分だけ維持したまま武装の補給やスバル自身の体と精神の休息だ。


 その間に、僕は戦闘記録を報告する。


 僕達を見ていたあの視線の主は「バロール」魔眼を持つ魔神というコードネームで呼ばれている。

 様々な戦場でその「視線」は感知されているが一向に姿を現さないし、交戦記録もない、特異個体の一体。

 他にも自分よりも強い相手とは戦わずに逃げる個体や、人を同化せずに殺すだけの個体など、ろくでもないのが勢ぞろい、その中でも害の無さでは最もマシではあるが、気味の悪さではトップクラスだ。


 そのバロールの出現……?感知と中型メデューサ3体の始末をタブレットで報告し、スバルとのリンク率の比重を上げる。


 リンク中に音はまだしも、景色が二つ見えるのは相変わらず慣れない。


「戻った、大丈夫かスバル」

「はい、怖気は収まって来ました」

「そうか、ならいい」


 スバルの見ているものは僕にも見える、僕の見ているものはスバルにも見える。

 リンク中は互いの心と視界を隠す事は出来ない、だから無理をしている様に感じないのなら、それは問題ないという事だ。


 スバルが整備スペースの側にある休憩用のリラックスチェアから身を起こすと視線の先には一人の魔法少女が居た。

 長い付き合いの知り合いだ。


「やーやーやー……お疲れさん、スバル姫と……夜火王子は今は繋がっているのかな?」

「ハフリは今もリンク中です。こんにちは、ミヅキさん」


 黒髪に赤い目に青と白をベースとした「巫女服ベース」の衣装を着た彼女は日本政府所属の魔法少女、守那深月(かみな・みづき)。

 僕らのこの前線基地へ来る為に所属する基地をよく中継地点とする為、顔を合わせる機会が多い。


 そんな彼女がこの作戦に参加しているのは当然の事だ。


「さっきのログで見たけど、夜火はよっぽどアレに好かれていると見たねぇ」


 僕達が、魔法少女が報告書をサーバーにアップロードすると、簡易ログが表示される、それはE.L.Fだけでなく、各国の政府所属の魔法少女にも開示される。

 彼女が言っているのはまさに今出した報告の事だ。


 とはいえ、僕としては敵に好かれても嬉しくなどない。

「それは御免被りたい」

「ハフリはすごくそれが嫌そうです、しかし先ほども聞きましたがハフリはアレと何度も遭遇?しているのですか?」

「それは私らとしても人を襲って食べたり殺したりする相手に好かれても困るだけだし、当然だろうねぇ。他にも見られたって人はいるけど、3年間で何度も見られているってのは夜火ぐらいだろうね」


 ミヅキの言うとおり、何故か僕が前線に出ると、アレは優先して僕を見に来る。

 どうやって僕の存在を感じ取っているのかはわからないし、アレが僕に直接手を出すこともない。

 それはこの三年間、ずっと変わらなかった。


「一番謎なのは、今回は前線に来たのは僕でなく「スバル」だと言うのに、僕の存在を感じ取った事だ」

「ハフリは、敵が私の中のハフリの存在を感じ取ったかが疑問に感じている様です」

「それは……そうだね、確かにいつもと違って今はスバルちゃんの体なのにね」


 詳細を知らなければ、スバルの姿だけを見て、僕らがリンクしているかどうかは判別するのは基本的に不可能だ。


 こうやって会話するにも、僕の声はスバル側に居る相手には聞こえない、スバル自身が言葉にしなければ、意思疎通は出来ない。


 スバルの体を動かす際の僕の戦闘機動、あるいは動きのクセを見て判別するのなら、判別できるかもしれないが……。


 そうか!


「だから、か。アイツがスバルを興味深く観察してたのは」

「ハフリは、私がハフリの動きをしたから、いつもより熱心にこちらを見たのではないか、と推測しています」

「なるほどねぇ、確かに知らない人が知ってる人の動きをそのままトレスしてたら私もビックリするよ。でも挙動だけで判別できる程に見られているって、それもう愛されてるレベルじゃない……?」


 いやそれはないだろう、スバルと出会う前でも僕はそれなりの数の敵を倒している、恨まれこそはしているだろうが、愛されていたら逆にびっくりだ。


「憎まれてはいるかもしれないとの事です」

「愛も憎しみもまだ近い感情だよ、自分の思う様にしたいけど、そうはならない、だから憎む……それがメデューサ達にも当てはまるかはわからないけど、私はそう思う」


 愛と憎しみ、か……僕とメデューサ達の間には縁の無い言葉だとは思っている。

 僕が戦うのは別に敵が憎いからじゃないし、興味があるからでもない。


 それ以外に僕に出来る事、やるべき事がなかったからだ。


「それよりも気になったのだが。今ログではミズキの所属部隊は出撃中と表示されているのだが、こんな所で油を売っていていいのか」

「それでミズキさんはサボリですか」

「……いいんですよ!コアのアップデートプログラムがついさっき来たから出撃中止になったんですから!」


 ウソだ、コアのアップデートプログラムが配布されたのはログによると三日前となっている。

 エンジェルモデルを初めとした魔法少女システムはネットワークを介して、最新の更新プログラムが送られてくる。

 それを整備用のタブレットを使用して、個人の仕様にあわせて最適化した上で適応する。

 当然、その裁量は使用者自身に委ねられているが、基本的に送られてくるプログラムはバリアコーティングの波長パターンや操作性の改善など、アップデートしない理由はない。


 だから大体即座に調整、テストし、戦闘に備えるのが魔法少女、いや戦士としての心構えだ。


「ウソだと思ってるでしょ!でも本当なんだよ!「式神」システムとの相性が悪くて別のデータを用意して貰ってたの!」


 ……ウソは、言ってないみたいだ。

 魔法少女規格は多くの装備やシステムと互換性を持つ、だが魔法少女システム専用の魔術式以外の「神秘性」「特異性」を持つシステムとの連動に少しクセがある。


 錬金術やこの世界に古来から伝わる魔術、法術などとの互換性を持たせるには手間のかかる調整が必要となる。

 それは別の術式を挟んだり、特性にあった物品などを装備したり、なんならプログラムの変更などが必要だったりもする。


 とはいえ、その壁を乗り越えれば、莫大なエネルギーにより従来よりも強力にその技術を運用する事が出来る。

 式神や使い魔などもその一つ、運用法としては無人機・ドローンの様なもので、支援機として非常に優秀だ。


 日本政府の魔法少女はこうした式神や土着の神性や妖魔、そして術式技術などと魔法少女システムの融合を模索している。


「確かに、式神は君達にとって重要な戦力。それにミヅキには何度も助けられている、だが……」


 いつも思うが、どうして魔法少女はこうもクセが強いのだろう。


「そのサボリ癖、逃げ癖はどうにかした方がいいと、ハフリと私は思います」

「てへ」


 てへではないが。


 守那ミヅキ、日本政府所属の16歳の魔法少女、日本政府仕様のエンジェルモデルを使用し、式神を使った連携・支援を得意とする。

 だがあまりに働きたがらず、全て式神に任せる技術に特化している。

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