第29話

俺はメグが面会室を出るまで見送った。後ろ髪を引かれる思いってこういう事を言うんだろうなって思ったよ。



工場に戻るとすぐに衛生係の所へ呼ばれた。


「メグさんだったんですか?いやぁ、マジで良かったですね…」


『あぁ…有り難うな…』


「…で、TOYさん恋愛の歌が無しって事なんでやっぱり友達の歌…」


『いや、恋愛の歌で行こう』


「…えっ?」


『俺には…愛しか無い…』


「…ぅす。」



当たり前だ。



部屋に戻って俺はしばらく見ていなかったメグの写真を手に取った。



「あの…TOYさん…」


『ん?』


「…いや、気持ち悪いッス」



相当ニヤついていたらしい。俺は思い出の中にトリップしていた様だ。我に返って必死に真顔に戻す。


『…いよいよ明日予選だな、稲本の野郎何で来るかな。』


「それなんですよTOYさん、実は稲本は前回カラオケ大会で危うく懲罰行きになりそうになってるんですよ。」


『カラオケ大会で懲罰?』


「あいつ前回調子こいてフリースタイルかましたんですよ。見事優勝はしたものの、後から処遇の親父に呼び出しくらって…ってTOYさん、聞いてますか?」


『…あぁ、聞いてるさ、それより彼女可愛いだろぉ…見てよこれ』



全員俺を無視してTVを見ていた。






翌日、昼休みまではいつも通りの流れ。ただ皆そわそわしていた。俺と稲本の勝負を知っているからだ。



「じゃあ今からカラオケ大会の予選を始める。まずは〜」


最初に歌ったのは小学生の男の子にいたずらしたBAD MINDなおかま。某アイドルの歌を歌って笑われていた。



論外



次に出て来たのは一昔前にお笑い芸人が歌ってそれなりに売れた都道府県の歌を歌ってバッチリ滑ってくれた。



…よし、次はいよいよ…


「次は…稲本」



…えっ?



稲本は計算係という役職についていて、担当台の真横に座っている。たまに作業中にも親父と無駄話しなんかをして笑っていた。

本来は俺が三番目と言われていたのにも関わらず、これは稲本が申し出たに違いない。でも何故だろう…


稲本はゆっくりと食堂の一番前に行き、即興で作られたお立ち台の上に立った。

「稲本さーん!」


「お願いしますよー!」


稲本派の人間が叫ぶ。


「稲本、何を歌うんだ?」


親父に言われて奴はこう言ったんだ。


「前回同様フリースタイルです。テーマは…



KILL THE REGGAE」

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