第4話 リアルでの実力がものを言う

……目が覚めると薄暗く、そして全身を拘束されていた!!


「!??!??」


って、そうだった。昨夜はあのままVRマシンで寝たんだった。

手元のコンソールで安全ベルトを解除してマシンの外に出る。


「うっ、いてて」


一晩中拘束されてたから、体が凝り固まってるな。

せめて明日からは安全ベルトを外してから寝るようにしよう。

時刻を確認すると5:30。いつもより20分早いな。

その分しっかり体を解してから僕は日課のランニングに出た。


うちの両親は昨今のアニメゲームブームによる運動離れを危惧して、僕が小さいころから何かとスポーツをやらせるようにしていた。

父さん曰く「男は体力、持久力が大事だ。特に下半身な!」と言って毎朝5Kmのランニングをさせ(中学にあがると10Kmに増えた)、母さん曰く「ピンチの時に助けてくれる頼りになる男の子になってね♪」と言って古武術道場に通わせてくれた。

その結果、一人暮らしを始めた今でも毎朝6時前に起きて10Kmくらい離れた自然公園まで走り、型稽古をしている。

まぁ道場のほうは去年、道場長の源五郎師範がぎっくり腰で引退したのをきっかけに通うのは終わりになったけど。


家から30分程で公園に到着。

いつもの広場で息を整える。5分間調息をして、5分間型の稽古をすることで全身に血と気が巡る。

師範曰くこの気を感じられるようになって自在に操れるようになって漸く半人前らしい。

体を捌き、半歩踏み込む、身をかがめる、貫手、返し、反転、打ち込み。

しばらくの間、公園内には僕の踏み込みの音と風を切る音だけが響く。

そこからさらに15分、今度は外敵をイメージしての乱取り。

普段は暴漢や武器を持った人をイメージするんだけど、ゲームの事もあるから、野犬の群れ10匹に囲まれた状態を想定してみようか。


10匹の野犬……統率が取れたやつらはまず3グループに分かれる。

1グループ目は正面でプレッシャーを掛けつつ警戒。

2グループ目、横に回って隙を伺っている。

3グループ目は1グループ目の後ろ、群れの司令塔(ボス)が居るとしたらここだ。

僕は相手の包囲が完了する直前、襲い掛かろうと動き出そうとした瞬間を狙って1グループ目に一息で近づく。


ヒュンッ


大きく踏み込むように蹴りだした左足がかわされる。

構わず更に踏み込んで1グループ目を通り抜けて3グループ目に突撃。

ボスと思われるやつの鼻に貫手を刺して倒す。

ボスがやられて隙が生まれる。それでも一拍遅れて襲い掛かってくる左右の犬を、更に踏み込みつつ体を回転させてかわし、蹴りと手刀で倒す。

3グループ目を制圧したところに1グループ目が、遅れて2グループ目が飛び掛かって来るので、囲まれないように移動しながら順次倒していく。

公園には僕の動きに合わせて衣擦れと踏み込みの音だけが辺りに響く。

そして最後の1匹を倒して収息。


ふうぅぅぅぅ。


人を相手にするより大分きつかった。途中何度か危ない場面もあったし師範に見られたら笑われるな。

おっと、急ぎ目で帰らないと、学校がギリギリかも。

ちなみに僕は高校2年生で家から走って20分くらいの所にある。

28分かけて家に帰ってシャワーを浴びてだから……うん、まだ余裕があるな。

そうして朝の日課を終えて家へと走った。


始業時間5分前に教室に入ると、近くの人にあいさつしながら席に着いた。

教室の中はいつも通り、そこかしこで友達同士で集まって話に花を咲かせている。

いつもなら気にならないんだけど、今日に限ってやけに一つの話題が耳に入ってくる。


「なぁ、聞いたか?新しいイベントだってよ」

「あぁ。でも最初の町でしょ。なんか今更って感じよね」

「いやそうでもないみたいだぞ。何でも取り損ねた基礎スキルが取得できるってんで掲示板が盛り上がってたし」

「えっ、なら料理スキルとかも取れるかな。あのゲーム美味しいもの食べようと思うと高くて」

……


どうやらゲーム、それもAOFの話題のようだ。

やっぱり自分でも始めたから気になってるんだな。

それと掲示板か。どんなことが書いてあるかちょっと覗いてみるかな。

そう思って携帯端末を取り出して有名どころの掲示板サイトを確認してみることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る