第7話 白菊祭当日!

 あの昼休みの後、南條さんと話す時間は無く、いつの間にか白菊祭当日、オープニングセレモニーの時間になってしまった。俺と桂志郎は裏方で照明の手伝いをしている。

「はぁ……」

「どうした? ステージの南條さん見つめて。まだ誘えてないのか?」

 南條さんはセレモニーの司会担当だ。生徒会に入って日が浅いのに、そつなくこなせてしまう辺り本当に凄いと思う。

「ああそうだよ」

「マジか……。二重の意味でびっくりだわ」

「どういう意味だよ」

「誘う決心が出来たことと、当日なのにまだ誘えてないことだよ」

「……」

 そう言えば、誘う決心をしたことを桂志郎には伝えていなかった。こいつが居なかったら、カエデさんの話を聞く事も無かったし、俺の決心が固まる事も無かっただろう。

「なんか、ありがとな。決心ついたのは桂志郎のお陰でもあるから」

「どういたしまして。それはそうと、いつ誘うんだ?」

「見回りの時に、隙を見て誘うよ」

「そっか。頑張れ」


 生徒会役員は白菊祭期間中、二人一組のペアで校内の見回りをしている。ペアの組み方には桂志郎が色々と理由をつけて、会長と桂志郎、俺と南條さんの組み合わせに決まったのだ。

 オープニングセレモニーが終わって、今は九時半前だ。企画開始して落ち着き始めた十時半頃から見回りになっている。クラスの出し物のシフトも夕方しか入っていないので、生徒会室でコーヒーでも飲みながら少し休憩することにした。

 コーヒーを淹れ始めようとした時に、生徒会室の扉が開いた。

「お疲れ様です。あ、北辻くん。お疲れ様」

「南條さん。お疲れ様」

「コーヒー淹れるの? 私も一杯貰って良い?」

「了解」

 俺はスプーンすり切り一杯の豆をミルに入れて、挽き始める。生徒会室の静寂の中に、豆を挽く音だけが響いていた。


「はい、コーヒー出来たよ」

「ありがと」

 南條さんに片方のコーヒーを渡してから、机を挟んで向かい合う形でソファーに座る。まずはコーヒーを一口啜る。良かった、美味しく淹れられたみたいだ。

「セレモニーお疲れ様。司会凄く良かったよ」

「いやいや、そんな事ないよ。それより北辻くんの方が凄いって。裏方で会計とか保健所との連絡とか、沢山仕事やってるし」

「いや、まあそう言う裏方仕事は得意だから。逆に俺は表に立つ仕事はあまり得意じゃなくてさ、南條さんが羨ましいよ」

「ふふっ」

 南條さんが笑う。その笑顔にドキッとしてしまう。

「なんか、私たちって相性良いよね。共通の趣味があって、得意不得意は逆だったりして」

「そうかもね」

 二人で笑い合う。こんなささやかな幸せがずっと続けば良いのにと思ってしまう。

 けれど、俺は決めたんだ。この関係を壊してでも、先に進む覚悟を決めたんだ。


「あ、そろそろ時間だね。見回り行こうか」

 南條さんが生徒会室から出ようとする。今、ここで言わなきゃタイミングを逃す、そんな気がした。

「あのさ、南條さん」

「どうしたの?」

「えっと……」

 変な汗が噴き出してくる。誘うの止めるか? いや、ここまで来て誤魔化せるか? 思考がぐるぐると回る。

「俺と、後夜祭でダンス踊ってくれませんか?」

 言った。言ってしまった。南條さんの顔を恐る恐る見ると、そこには笑顔が待っていた。


「はい。喜んで」


*   *   *


 うちの学校では、白菊祭の後夜祭として、教員が主催するキャンプファイヤーが行われる。このキャンプファイヤーの周りで踊ったカップルは末長く結ばれると言う在り来たりなジンクスがあるのだ。

 音楽が流れ出す。そのリズムに合わせて周りのカップルも踊り出す。その中に、ゆらゆら揺れているだけのカップルが一組いた。

「ふふっ」

 俺の顔を見上げて、彼女が笑いかける。

「な、何だよ」

「踊りは二人とも上手くなかったね」

「ま、まあ来年は頑張るよ」

「……」

 彼女が俯く。それを見て、自分の恥ずかしい台詞に気が付いた。繋いでいる手から嫌な汗が出る。来年も、とか口走ってしまったけど、大丈夫だろうか。

 いや、今更恥ずかしがっても仕方が無い。どうせ俺はこの後すぐに、彼女に付き合いたいと伝えるのだから。

「あのさ、南條さん、俺と……」


*   *   *


「良い感じに進んでるね。この調子で、二人には生き急いでもらわないと……」

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