第3話:聖女様は招待される

『それでお兄ちゃん。どこで何をしているの?』

「それだが、今は友達(?)と近所の公園で話していたところだ」


 何故疑問形になったかというと、天宮との関係が同じ学校のクラスメイトなだけで友達と言っていいか分からなかったからである。


『お兄ちゃんに友達がいたの!?』


 樹に友達がいたことに対して驚きの声を上げた妹。


「いるわそのくらい!」


 つい突っ込んでしまったが、事実、嘘ではなく樹にも話すクラスメイトくらいは数人いる。そして、電話越しに妹が誰かに何かを言っていたのが聞こえ樹は嫌な予感がした。


『お母さんが、もう暗いしお友達も一緒に家で食べて行きなさい、だって』


 樹の嫌な予感は的中し、やっぱりか、と思った。だが、ここですぐに断るわけにはいかない。そしたら樹に友達がいないと思われ、家族からやたら優しく接しられるからだ。

 これに関しては予想済みであった。


「わかった。聞いてみるから待ってろ」

『はーい☆』


 やたらと機嫌の良い妹だったが気にせず電話をミュートにして、天宮に夕飯を家で食べて行くかを尋ねたのだが。


「いえ、流石に悪いですのでわたしは自宅で食べます」


 それもそうだ。数回しか話していない同級生の、しかも男の家でご飯を食べるのだから。天宮が樹からの誘いを断るのは至極当然のことであった。


「だよな。そう伝えておく」


 ミュートを解除して来ないことを伝えたのだが。


『あたしよ~。あの子なら、「本当か嘘かを確かめに行ってくるね」と言って出て行ったよ』

「……はぁぁぁあ!?」


 まさか、妹がすでに家を出ていたとは知らず、思わずそう叫んでしまった。


「……あの、桐生さん?」

「ちょっと待って!! 今はピンチなの!」


 状況が理解できない天宮に待ったをかける。


『あら、何か声が聞こえた気がするわ。やっぱりお友達が一緒にいるのね。なら連れてきなさい。お友達母さんたちに紹介してね~。それじゃ~』

「ちょっと待っ――って、切りやがった!」


 電話を切られ焦る樹。


(ヤバいどうしよう。この状況は不味い! 一緒にいるのが女だってわかったら……)


 考えるも思いつかない。

 そんな樹に天宮が声をかけた。


「あの、どうかしましたか? もう帰っても?」

「……俺の妹がこっちに来てる……すまない」

「え? 妹さん? それはどういう――」

「お兄ちゃん見つけたよ!」


 天宮の声は、後ろから聞こえた声によって遮られてしまう。二人して後ろを振り向くと、そこには仁王立ちし菜の花色の瞳に鉄紺色のショートヘアをなびかせた、樹をビシッと指差す少女がいた。


「な、菜月、なんで……」


 そう。樹の妹である桐生菜月(なつき)である。


「近所の公園って言ったらここしかないからね。それで友達っていうのは――」


 そう言って隣にいる天宮に気づいた菜月は固まった。

 ギギギッという油を差し忘れた機械の如く樹を睨む菜月。


「この人誰?! 友達っていうのは嘘でしょ! ナンパしたの!? ねえ早く答えてよ!」


 もし誰かがその言葉だけを聞くと、まるで浮気がばれた彼氏の気分になるのだが……

 それはさておき、樹は天宮を紹介する。


「いや、まあ友達というより……クラスメイトだな。名前は天宮真白だ。天宮、こっちは俺の妹の菜月だ」

「初めまして。天宮真白です。桐生さ――いえ、樹さんとは同じ高校のクラスメイトです」


 丁寧な自己紹介をする天宮。


(やっぱり友達じゃないのね……)


 心に何かがグサッと刺さったが気にしないことにする。

 一方、自己紹介をされた菜月方はというと、天宮真白という目の前の美少女に見惚れていた。同性でも見惚れるということは、それだけ美人ということなのだろう。

 固まっている菜月に声をかける。


「菜月も自己紹介くらいしたらどうだ?」

「あっ! そ、そうだよね! 初めまして。お兄ちゃんの妹、桐生菜月です……さて、自己紹介も済んだし家で夕飯食べて行こうよ!」

「おい、ちょっとは遠慮ってものをだな……」


 そう言って菜月は天宮の手を掴んでぐいぐいと引っ張っていく。


「えっ? あ、あの……」


 天宮は困惑しながらも樹の方を振り返る。その顔はどうしていいのかわからないような表情をしていた。

 流石に天宮には申し訳ないので菜月を呼び止める。


「菜月ッ!」


 樹の大声にビクッとして立ち止まった菜月は、ゆっくりと振り返りこちらを見た。


「な、なにお兄ちゃん?」

「天宮が行くと言ったか?」

「うっ……い、言ってない」

「ならしっかり聞くんだ。人の話も聞かずに強制するのは良くない」

「……はい」


 手を離した菜月は天宮に向き直った。こういう素直なのが菜月の良いところなのだ。

 そんな菜月は天宮の目を見て。


「ごめんなさい天宮さん。その、家でご飯、食べていかない……?」


 菜月に、上目遣いでそれは反則だろ、と言ってやりたい。

 そんな菜月に困惑する天宮はこちらを見た。


「天宮の好きにしてくれ。菜月もそれでいいだろ?」

「うん!」


 菜月へと向き直った天宮はゆっくりと、形の整った艶やかで綺麗な桜色をした唇を動かした。


「……ご迷惑でなければご一緒させていただきます」


 つまりは行くという事である。


「やったぁぁぁあ!」


 それを聞いた菜月はジャンプして喜ぶのだが、それとは対照的に樹は初めて同級生を、しかもあの学校一の美少女である天宮真白を家に招待することになって緊張してしまう。

 だがそれよりも、両親からのいじりがあると思うと憂鬱になる樹であった。



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