第8話

 警察署から帰宅する途中、俺と冬月はある店へと入っていく。

 店の中には様々な日本刀や西洋にあるような剣の模造刀や竹刀などの武器と呼ばれるものが大量に並べられており、外国人のお客が比較的多い店だ。


「いらっしゃいませ、霧崎鍛冶店へようこそ!」


 元気のいい女性の声が店内に響く。


「どうも、今日はやけにご機嫌だな、莉沙」


 この店を切り盛りしている鍛冶師の霧崎莉沙。

 身長がかなり高く、女性にしては体格がよくそれでいて美人という女性だ。

 いつも俺の刀の手入れを頼んでおり、この店の数少ない日本人の客でもあるのだ。


「まあね、ちょっと楽しみなことがあってね。そっちは今日もデート?」


「今日もってどういうことだよ」


 俺は呆れながら答える。

 冬月は動揺し、慌てた様子だ。


「ち、ち、違いますよ! 仕事終わりに寄っただけです!」


 冬月は慌てて両手を振り、莉沙に対して大声をあげた。


「あはは、ごめんごめん。ところで今日はあれを取りに来たの?」


 冬月に謝ると、俺のほうを向き質問してくる。


「あぁ、ちょっと危なそうなところに行くことになってな」


 店に並んでいる刀を眺めながら俺が答える。


「そういうことね。いつものことだからまた無茶するんじゃないの? まぁいいわ、ちょっと待ってて」


 莉沙は店の奥へと向かった。

 しばらく店に並んでいる刀を見ていると、莉沙が刀をもって戻ってきた。


「はいどうぞ。今回は刃こぼれがひどかったけど何したのよ」


「い、いやぁ、強盗犯が発砲してきたときに何発か刀に当てられてな」


「何やってんのよ、あんたは」


 そう言いながら莉沙から日本刀を受け取り、出来栄えを確認すると業物となって返ってきた。


「さすが莉沙。いい感じになったな、ありがとう」


「まぁね、私にかかればこんなもんよ」


 莉沙は胸を張って自慢げにしている。

 普段から自信過剰なやつではあるが実力は折り紙付きなうえに、ここまでの出来栄えだと何も言えない。

 それにこの刀は俺にとってとても大事な刀で、失うわけにはいかない代物なのだ。

 突然、何かを思い出したかのように莉沙が口を開く。


「そうだ、今度黄野町に行くことになったんだけど、二十年前に変死事件みたいなのあったじゃない? それでオカルトの仲間に聞いたら幽霊が出るとかいわれてるじゃない。それで何か知ってることないかな?」


 表情を明るくし、少しワクワクしている様子で俺と冬月を見る。

 そういえばこいつ、オカルトとか好きだったな。


「あぁ、黄野町な。俺たちも調査に行こうと思ってるんだよ」


 俺に続けて冬月が、

「霧崎さんは何用で行くんですか?」


「オカルト好きとしては幽霊が出ると聞いたら行くしかないじゃない!」


 莉沙の発言に苦笑いを浮かべていると続けて莉沙が「まあ、そこで会えるといいわね」と言った。

 横で冬月はなぜかムッとした表情で莉沙を睨んでいる。

 すると莉沙が冬月に手招きをしており、近づいていく。

 莉沙が何か冬月に言ったみたいだが、冬月が突然硬直する。


「……おい莉沙。冬月に何話したんだ?」


「別に何でもないわよ! ほら、そろそろ店をたたむ時間だし帰った帰った!」


 莉沙に追い出されるように店から出ていき自宅へと向かって帰る。

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