犠牲
ミササギは階段の途中で止まったまま、自分を見つめている顔に視線をめぐらした。
セセラギもシルワも、ラクスもクストスもいる。調査官の中には倒れている者もいるが魂が離れていないことを考えると、命までは失っていない。間に合った。
「どういう、だが、いるはずなのに気配を感じない魂。セセラギと同様に守りの魔法が刻まれているということは、まさか、本当のミササギだと言うのか? そんな馬鹿な」
フルメンのつぶやきに、セセラギは思わず一歩、兄に近づいた。
「魔法を扱う身ならば、信じられないことの一つや二つくらい、信じるべきだと思うが」
ミササギは階段の途中で落ちていたセセラギの剣を拾うと、もてあそぶようにくるりと回した。
「全ては、オルド殿の謀ったこと」
「何を!」
「君は自分の計画通りに進んでいるつもりなのかもしれないが、そう思うように誘導されたに過ぎない。私の魂がオルド殿に消されたと、オルド殿が私の体を奪ったんだと。そして君に負けたんだと。違う」
もてあそんでいた剣を、フルメンに向ける。
「君こそが、オルド殿の計画の上に乗せられているにすぎないんだよ。手のひらで転がされているのは、君なんだ」
「…………」
フルメンはその言葉に目を伏せたが、やがて口元に余裕のある笑みを浮かべると、声をあげて笑い始めた。
「ふふははっはっは。……なるほど、確かにそのようだ。しかしオルドが消えたことに変わりはない。それに、オルドよりも力を持たぬ、たかが二十をわずかにこえたばかりの小僧に何ができる?」
「何かは、できるのではないかな」
「生意気な口を。ならば試してやろう。――動け」
フルメンの声で発動した魔法が、あちらこちらに散らばったがれきを動かし、ミササギに向かって飛ばした。
塵を巻き上げながら飛んでくるがれきを見つめ、ミササギは冷静に対処する。
「ノル・ゼノジュイ、貫け、剣舞よ」
法陣から展開した刃が放射状に飛び、がれきを粉砕していく。さらにがれきを砕いた刃は、弧を描くとそのままフルメンに向かって真っ直ぐに飛んだ。
予期していない魔法の使い方だったのか、フルメンは少し驚きながら守りの魔法で叩き落とした。
「これは……!」
「君がオルド殿を消した時、オルド殿は何の魔法を唱えたと思う?」
ミササギは様子をうかがいながら、慎重に階段を一段降りた。隙を探っているものの、フルメンに魔法封じの魔法をかける間はなさそうだ。
「
「ふん、あの男め。死んでもなお邪魔をしよって、どれほど私の邪魔をすれば気がすむと言うのだ。こうなれば!」
フルメンは宙に法陣を描いた。
「痺れろ、レナ、降り注げ、
二つの異なる法陣が同時に発動され、二つの魔法が引き起こされる。
空中で展開された黄色の法陣からは、いくつもの電撃が、続くように展開された鈍色の法陣から
下にいるシルワたちに向かってそれらが降り注ぐ。電撃と鋭い槍の雨、人が当たればどうなるのか考えただけでも恐ろしい。
ミササギは誰よりも早くフルメンの魔法に反応すると、法陣を描いた。不規則に向かってくる予想できない攻撃だ、守りの魔法では意味がない。
「ノル・ラケニ・アランス、時を留めよ」
ミササギの
動ける調査官たちは、どうにか重症の仲間を立たせるとそこから退避し始めた。中には守りの魔法を発動した者もいる。
追い打ちをかけようとするフルメンに、ミササギは
フルメンが退避した隙に、ミササギはセセラギに近づくと剣を差し出す。セセラギは何かを言おうとして迷い、黙ったままそれを受け取った。それまで手にしていた部下の武器を、代わりに地面に置く。
その間にラクスは左足をかばいながらクストスとともに逃げようとしたが、恐怖で動けずにいるシルワに気づいた。
攻撃が遅くなっているとはいえ、早く逃げなければ魔法の餌食になるのは明らかだ。
「シルワっ」
ラクスが声をかけると、我に返ったのかシルワは肩を動かすと彼の方に駆け寄った。
それを横目で見てからフルメンは、ミササギとセセラギに向き直った。
そのそばで、ゆっくりと動いている電撃が、床や壁に当たってはあちこちに焦げ跡を残していく。槍もゆっくりと床に落ちると、その姿を失っていく。
「守るだけか、私を攻撃しないのか? 甘いな、お前は」
フルメンは法陣を二人に向けて描き始めた。当然、その攻撃魔法は二人に向けられたもののように思えたが、
「切り吹け」
フルメンの手元に現れたのと同じ法陣が現れたのは、二人ではなく、ラクスたちに向けて走っているシルワの近くだった。
「なっ」
ミササギは自らのそばに展開しようとしていた法陣を解除すると、シルワの近くに守りの魔法を展開しようとした。
シルワも気づいて、自らの手で法陣を描いたが、風の魔法がその前に発動する。
そうしてミササギの守りの魔法が展開される前に、何かがシルワの元まで向かうと彼女にぶつかり、その場から突き飛ばした。
軽いシルワの体はころころと地面を転がり、ラクスの足元で止まった。どうにか起き上がると、ラクスの視線を追うように先ほどまで自分がいた場所に視線を向ける。
「クストス様!」
シルワの叫びを聞きながら、ミササギは、彼女を突き飛ばしたクストスの体に風の魔法が幾重にも突き刺さるのを見た。
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