第4話 一発必中させられない系魔法少女、ワンエメちゃん登場!

 酷い一日と言うものは、本当に酷い一日になるものである。

 一誠は非常勤の用務員として、埼玉県は大宮近辺の植田◯△小学校に勤務しているのだがマセた小学生の女子というのはマセているだけあて非常に達が悪く、非常にムカつく。

 まず、用務員としては若い彼がゴミ焼却炉で可燃物の焼却をしているとわざわざ近づいて来て言うのだ。


「ねぇねぇ! ヤヴァいって! 超臭い! 妊娠しちゃう!」

「妊娠ってなーに!?」

「パコパコしてプシャーってやつ!」

「ナニソレヤヴァーい!!」


 クソガキ共の表現の方がヤヴァいわ。親は一体何を教えてんだ。


「あの煙吸うと行っちゃうらしいよ!」

「天国に!?」

「地獄に!!」


 今すぐ堕ちろ、貴様らが。


「やだ! こっち見た」

「ヤヴァーい、きもーい!!」

「いこいこー!!」


 クッソガキが! テメーらに蚊ほども魅力などないわ、クズが!

 消えろ!! ゴミジャリ!!


 ポーカーフェイスでゴミの焼却を続ける津崎一誠であったが、この年代の子供にとっては正体不明の用務員など嫌悪の対象でしかなく、ましてやこのご時世にありながら校舎裏の焼却炉で可燃物(主に枯れ枝や枯葉)を燃やしている教師でもない男性などエイリアンに等しく男子生徒からも石を投げられる始末だ。

 高齢のお爺さんしか用務員いない理由がなんとなくわかるわ。お爺さんなら「用務員らしい」く見えるからな。俺みたいに中途半端に若い奴が用務員って、不審者にしか見えんだろうさ。

 クッソが! ガキ共! 貴様らも厨二病患ってスーパーオタに堕ちれば同じ穴のムジナよ! ファーッハッハッハ! クソが死ねよ!!


 虚しくなって来た・・・。


 仕方がないので特別に今日は小学生クソガキ共を無視して作業をこなして行く。

 気がつけば下校の時間。


『地域の皆様、いつも見守って下さり、ありがとうございます』


 そうだぞ。いつも俺が見守ってるからこの学校には不審者が近付かないんだからな。


『これからもよろしくお願い致します』


 ウッセーバーカ自分でどうにかしろ。


 不満たらたらで児童が帰った後の校舎を隅々まで見て周り、窓という窓、扉という扉の施錠状態を確認して行く。

 金を持ってる学校なら、何でも屋の用務員じゃなくセコマしてるんだろうが、津崎一誠の勤務する小学校にはそんな金は無いらしく、日給七千円で津崎一誠を雇っている有様だ。

 しかも、非常勤で出勤は飛び飛びというなんとも世知辛い職種ではないか。

 触手ならいいのか?

 話が逸れた。

 児童が帰った後の小学校校舎内を見回って、そろそろ勤務終了時間という所で、音楽室から悲しげなピアノの曲が聞こえて来て自然とそちらに足を向ける。

 この時間、夕方の七時(もうほとんど夜じゃん季節によっては)にピアノを演奏する人など一人しか居ない。教員のマドンナ、朝比奈忍先生だ。

 黒髪を腰まで伸ばした大和撫子で、文武両道。今や廃れて久しい槍術の使い手で、波いる変態共を一撃の元に屠って来た力天使パワー

 でも、一誠に向ける視線は時折儚げで、まるで彼を誘っているかのよう。

 それにしても、今日の曲調は取り分けて物悲しい。というより、アニソンの挿入歌のようだが・・・。


(朝比奈先生って、アニソン嫌いじゃなかったっけ?)


 アニソンの定義にもよるが、朝比奈忍という女性は非常にガードが硬く、趣味も不明な妙齢美人教師であったがアニメは毛嫌いしていたと記憶している。

 それに、今日のピアノの弦を叩く音色は朝比奈先生の繊細さが無い。上手なんだが、柔らかさが足りないのだ。

 朝比奈先生でないとすれば生徒だろうか?

 ともかく、下校の時刻をすでに回っていると言うのに生徒が残って遊んでいるとなると、


「戸締りが出来ない。イコール帰れない」


 と言う事になる。

 ふざけんなよおい、さっさと帰れよ!


 津崎一誠はなるべく相手を驚かせないようにと、驚かせたら色々と面倒くさいので、やんわりと帰らせるためにそっと音楽室に足を踏み入れる。

 が、目に入ってきたのはピアノの前に座って上手なアニソンのエンディング曲を奏でるセーラー服姿の少女の姿だった。

 上品なメガネ。綺麗に刈りそろえられた黒いボブカット。色白の肌。目は大きく潤んでいるように輝く。

 しかし、津崎一誠にとってはただの不審者!

 俺は帰って餡饅をレンジでチンしてビールの肴にしながらニャコニャコ動画を見ると言う使命があるのだ!

 早々にお帰りいただこうではないくわっ!


「キミキミ、見ない制服だね。植田◯△小の卒業生?」


 少女は演奏を止めると、美しい瞳で見つめてきて言った。


「いいえ、違うわ」


「そうか。なら、不法侵入と見なすけど。大人しく学校から出ていくなら騒ぎにはしない。ともかく戸締りをしたいんだ、出て行ってくれるかな?」


「やっと見つけた相手が、こんなボンクラだなんて・・・。信じられないくらい拍子抜けなんですが・・・」


 何言ってんだ、コイツ?


「あのね、お嬢さん。こんな事で警察呼ばれたくないでしょ?」


「最近の怪人は、本当に人間に成り済ましているんですね」


 ・・・ん?


「しかし、貴方の戦闘力は未知数。フランちゃん達のためにも、貴方の戦闘力は測らせてもらいます」


「あのー、意味不明な事口走ってないで、お引き取り願えませんか?」


 なんだか嫌な予感がして、追い出そうと声をかけるが、少女は意にも介する事なく唱えていた。


「ヒカールデカールペカーリア、シュピリンシュピリンナイレーン。コスチューム・アップデート! 魔法少女、ワンダーエメラディア! 怪人討伐致します!」


 ばっと少女が右手を天にかざすと、少女の身体は所々大事な部分が眩い光に包まれて、光が収まる頃には緑色の水着に腰にパレオを巻きつけて宝石が豪勢に輝く弓を左手に持つ魔法少女へと姿を変えていた。


 おおっと・・・マジか・・・追いかけてきやがるとは想定外。

 と言うか、俺の正体バレてる系?

 ひとまず、誘導尋問的な行動かも知れないしとぼけておくか。


「ええと、何の隠し芸か知らないけれど、さっさと出て行かないと本当に警察呼ぶけど・・・」


 魔法少女は、酷く驚いた顔をして素早く獲物の弓を構えてこちらを狙ってくる。

 あれ? 本当にバレてる?


「本当に呆れてしまいます。私の存在に驚いたり欲情して取り乱すならいざ知らず。それだけ落ち着いていると言うことは私一人に負けるはずがないという自負があり、魔法少女と言う存在に気付いていると言っているようなものです」


 弓に光が収束して行き、緑色に輝く魔法の矢が装填される。

 じっと静かに津崎一誠に狙いを定める魔法少女、ワンダーエメラディア。面倒くさい名前だ、ワンエメで構うまい。

 と言うか・・・。


「キミ・・・色々と恥ずかしくない?」


 端的な質問をぶつけてみた。

 みるみる顔が赤くなってくる。

 恨めしい目でこちらを見ているかと思いきや、不意に矢を放ち、緑の閃光が津崎一誠の足元の床に突き立ち小さな爆発を起こして床を抉って光の粒と霧散した。

 ゆっくりと足元を見てみる。

 電動ブレーカーでガッツリ叩いたくらい削れている。


「・・・て、コレどうすんだよ! 誰が直すと思ってんだ!?」


「お黙りなさい・・・私だって・・・私だって好きでこんなハズカシイ格好してるわけじゃないのに!! みんなみんなお前達怪人のせいだうわーーー!!」


 激昂した様子でさらに弓をつがえやがりました!!

 このままここで戦闘になったら、学校が、備品がめちゃくちゃに破壊されかねない!

 そこからの津崎一誠の判断は早かった。

 逃げる。そう、まず逃げる。

 一目散に!!


「に・・・にげた・・・? くっ! 人を辱めておいて、速攻で逃げるなんて! 待ってください怪人さん! どうか私の弓で蜂の巣になりやがってくださーい!!」


「ふっざっけんな!! 俺が何したっつーんだ!」


「これからするつもりでしょう!?」


「しねーよ、死ねよ!!」


「いいえ! しました! 私のこの可愛い魔法少女装束をハズカシイって言った! 万死に値します!!」


「そんな理由で倒されてたまるか!!」


 廊下を走る、走る、走る。

 長い廊下の掲示物に、廊下は走ってはいけませんの文字。

 知るか! 馬鹿! と言うより、何で俺の正体知ってるんだ!?

 脱兎の如く逃げる俺、津崎一誠。

 脱兎の如く追いすがる魔法少女ワンエメちゃん。

 ふざけんなよ、マジで。何このシチュエーション。だからって下手に変身なんてしないんだからね!

 緑に輝く閃光がすぐ左を掠めて飛んで、下駄箱に当たった。

 豪快に吹き飛ぶ下駄箱一つ。子供達の上履きが宙を舞う。


 幾らかかるんだろう弁償代。

 どうあがいても、これって俺のせいにされるよな。申し訳程度の監視カメラなんて玄関口しか映してないし。

 これ以上の損害は! と言うかすでに破産コースだが、せめてこれ以上の損害は勘弁してほしい!

 玄関の通用扉を開き、ガラスを破られないようにわざと開けっ放しで外に逃げ出すと、ワンエメちゃんはわざわざ、御丁寧に、閉まっている通用扉をガラスを吹き飛ばしながら追いかけてきやがった!!


「おい、ふざけんなよ!! 学校に罪はねーだろう、何でわざわざ壊すんだよガラス割るんだよ弁償しろよ!」


「黙って私に撃たれなさい! そこに直れ変態怪人!」


「まっつっかっっっっばっか!! つーか魔法少女がそんなにも周り見ない、器物破損もカンケーないって、倫理的にどうなのよ!?」


「知るか!! 私をハズカシイって言った罪! 絶対に償わせてあげます!!」


「お前は絶対に怪人よりコワイよ! 魔法少女コワイ!」


「怪人がいうに事欠いて、私がコワイだなんて! 怪人の方が見た目もグロくて黒くてテカテカしているくせに! 可愛い私をコワイだなんて絶対に許せません!」


 だって顔がすでに鬼になってますよワンエメちゃん!!


「ともかく逃げる! 俺は逃げる! 訳も分からず怪人だからって追いかけ回すのは絶対に悪党の所業だ!」


「悪党はあなたです! 大人しくやられなさーい!!」


 もはや支離滅裂。どっちもどっち。

 せめて周りに迷惑をかけないようにしよう。

 津崎一誠はせめてせめてと、荒川沿いの河川敷目指して、人気を避けて疾走する。

 魔法少女は追いすがる。

 この逃亡劇で、魔法少女ワンエメちゃんの放った魔法の矢で、自動販売機一台、放置自転車三台、どこだかのビルの自動ドアが一枚破壊されたのは内緒だ。

 ・・・あれ・・・誰が直すんだろう・・・。

 どっかの監視カメラに写ってたら、俺が弁償する羽目になるのか?

 マジで何なのこの展開・・・涙・・・ちょちょぎれます・・・。

 魔法少女は・・・敵です、コワイです・・・。





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