第14話 罪の重さ

 加藤は再び深山神社を訪れていた。

 辺りは闇に包まれた中、深山神社は相変わらず人っ子一人いない無人状態だった。

 華月から寒川を救う方法を教えてもらった加藤は、最初の手順として御神木の枝を取りに来たのだ。


「これか……」


 加藤は、御神木から小さな枝を折る。

 その体はボロボロであり、顔までも土で汚れている。

 すでに満身創痍の加藤は、焦点が定まらず、体が左右に揺れている。


「やべぇ……意識が……」


 フラフラとなり倒れかける加藤は、その足でしっかりと地面をしっかりと踏みしめ、倒れるのを防ぐ。

 疲労しきった加藤の耳に女性の声が入る。

 理想の女性や初恋の女性なら分かるのだが、加藤が聞いた声は意外なモノだった。


「あれ? 加藤君?」

「そ……寒川さん?」


 目も前には、寝たきりになっているはずの寒川が立っている。

 加藤がずっと助けたいと思っていた寒川が立っていたのだ。


「寒川……さん? これは……夢?」

「それはこっちのセリフだよ。加藤君こそ、どうしたの? 凄い怪我だし、心配」

「だ……大丈夫大丈夫……ハハハ。こっちこそ、寒川さんが元気そうで俺も一安心だよ」


 加藤は気付いていた。

 こんな都合の良い話などないと理解していた。

 なのに、体に力が入らない。


「私のこと、心配してくれたの? ありがとう!」

「いやぁ……当然さ」

「嘘つき……」

「え?」

「私のこと見殺しにしたくせに……よく言うよ」

「何言って……」

「アハはっハハ」


 目の前で笑う寒川は、目をひん剥き加藤を見下して嘲笑う。

 あまりの出来事に加藤は思考が追い付かない。

 何が本当で何が嘘なのか、自分が何をしようとしていたのか……右か左かも分からない赤ん坊のように、加藤の思考は停止する。


「私の家まで来てくれたのに、入らずに逃げ帰ったくぅせぇによぉ」

「うっ……」

「あぁ~あ、こんなオドゴに助けを求めたワダジがバカだったぁ~」

「あ……あぁ……」

「まったく、最低なクズ男ダナァ」


 度重なる妖怪の襲撃、陰陽師による暴行、そして大切な友人を助けられない苦悩……ここ数日で立て続けに起こった加藤を極限まで追い込む出来事の数々に加藤の精神はすでに限界に近づいていた。

 寒川の姿をした何者かは、口角を鼻まであげ、大きな牙がちらつく。


「悪い子にはお仕置きしなきゃだね」

「……」

 

 完全に正常な意識を消失した加藤に、一歩また一歩と近づく。

 放心状態の加藤を見つめながら、寒川の皮膚が溶けはじめ、中から人の形をした何かが姿を現す。

 まるで地蔵のような姿をした何かは、右手を加藤の頭に伸ばす。


「待っていたぞ……この時を」


 次の瞬間、勢いよく加藤はその何かの右手を弾き飛ばす。

 立ち上がった、加月・・は余裕の笑みを浮かべ、目の前で体の土を払う。


「ギ……ギザマ……」

「わざわざ枝を折って呪われてもらったからな。出てくるだろうと思っていたぞ? 祟り神」

「なるほど……アナダ……妖怪でずね?」


 目の前の祟り神と呼ばれた何かは、徐々に寒川の姿へと変わっていく。

 

「ふん……菩薩の姿とは……神仏が1つになっているのは本当なのだな」

「ワダジはワタシ……、敬いなさい」

「人間の体を借りるとは趣味が悪いな」

「ソナタこそ、人間の体を借りてるのではなくって?」

「私はお互い同意の上だ」

「どちらにせよ、御神木の枝を折ることがどれほど重罪か分かっていないようね」


 寒川は、何処からともかく現れた錫杖を手に持ち、加月を睨む。

 相対する加月の右手には、いつの間にか日本刀が握られている。


「では少年との約束を果たさせてもらおうか」

「残念だけど、ソナタの約束は果たされそうにないようね」

「……どこまでも邪魔なやつらだ」


 寒川の背後から、黒い衣装に身を包んだ集団が集まる。

 その手には護符が握られ、殺気を周囲にまき散らしている。


「華月くぅ~ん、結界の外なら滅してもいいよなぁ?」

「その前に、目の前の女を何とかしろ、人間の体を強引に奪っているぞ」

「ん? どうみても人間だろ? それに、もしそうだとしても何も問題ない。それに比べて大問題なのはアンタだ……何と言っても妖怪だからな。俺たちは滅さなきゃならねぇ」

「……どこまでも、面倒な奴らだ。私もか弱いコーコーセイなのだが?」

「妖怪が……どの口が言う?」

「ちっ……イラつく奴らだ。前々から思っていたが、貴様らにも少し痛い目をみてもらうしかないな」


 重い雰囲気が、周囲を覆う

 寒川は腕を組みながら、高みの見物をするかのように笑みを浮かべている。

 

「結局、どいつもこいつも……イラつかせる奴らばかりだな」


 加月は、笑みを浮かべる。

 その表情は、戦に挑む獣のようで、気迫が漏れ出ている。


(少年……この体、少し無理をさせるが、そこは許してくれ)


 次の瞬間、加月の背後に巨大な魔法陣のような文様が現れる。

 かと思うと、眩い光が周囲を覆い、やがて光が収束され何本かの槍のように形を変える。

 その槍は四方八方に別れ、加月を全方位から襲う。

 辺りを覆っていた光が徐々に薄くなり、そして辺りに静寂が訪れた。

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