アイテムボックスの中身、勝手に持って行くんじゃねぇ

喰寝丸太

本文

「今から成人の儀式を執り行う。マルコット前に出なさい」


 俺、マルコット15歳は商人見習いだ。

 やっている事は殆んど雑用。

 早く自分の店を持ちたいと思う今日この頃だ。

 成人の儀ではスキルを一つ貰える事になっている。

 俺は一歩前に進み、どうか良いスキルに当たります様にと神に願った。


「神よ。この者にスキルを授けたまえ」


 光りの輪が降りてきて俺を包んだ。


「さてと、どんなスキルかな。スキルオープン」


――――――――――――――――――――――――

スキル:

 計算 LV2

 掃除 LV3

 アイテムボックス(家出中) LV1 NEW

――――――――――――――――――――――――


 やったアイテムボックスだ。

 これで大商人の夢に一歩近づいたってもんだ。

 でも変なのが付いているな。

 家出中って何だ。

 嫌な予感がする。

 とにかく使ってみよう。


「アイテムボックス」


 黒い穴が目の前ある。

 手を入れると、品物のリストが頭に浮かぶ。

 品物はまだ何も入れてないはず。

 ええっと、ボールペン5本、ノート3冊、鉛筆2本、一円玉8枚、五円玉13枚。

 これはどう考えたら良いのかな。


 きっとスキルをくれた神様のお恵みに違いない。

 ありがたく頂いておこう。

 家出中は神様の冗談だよな。


 俺はその品物を持って商業ギルドの買取部門に行った。

 受付にはダドリッチじいさんが座っている。


「じいさん、鑑定をお願いするぜ」


 俺はじいさんに何時ものように話し掛けた。


「マルコット坊やか。今度はどんなガラクタだ」


 俺はカウンターにアイテムボックスから出てきたお宝を置いた。


「どうだ神のお恵みだぜ」

「どれどれ、鑑定。ほほう、凄い物を持って来たな。この世に存在しない品だと。特に銀色の硬貨が凄い。わしも知らない金属だ」


「全部でどれくらいの金額になるのかな」

「そうさな、おまけして金貨三十枚ってところじゃな」

「売った」


 俺はお金を貰い、金貨十枚で商業ギルドのF会員になった。

 これで今日から俺も独立商人だぜ。

 金貨は盗まれるといけないからアイテムボックスに入れとこう。


 翌日。


「無い!? 俺の金貨が無い!!」


 確か昨日アイテムボックスにちゃんとしまったはずだ。

 まさか神様が盗む訳無いよな。

 家出中ってこの事か。


「アイテムボックスの中身、勝手に取っていくんじゃねぇ!」


 しばらくふて腐れていたが、何時までも腐っていても仕方ない。

 そうだ、あまり価値の無い物を入れて様子をみよう。

 俺は石ころをアイテムボックスに入れようとしたが入らない。

 何故だ、アイテムボックスが壊れた?

 いらなくなった羊皮紙を入れるとアイテムボックスに入る。

 神様の好みの物しか受け付けないってか。

 ペンを入れてみると入る。

 いったいどういう好みなんだ。

 干し肉は入らない。

 好き嫌いの激しい神様だな。

 下着も駄目。

 持ち物全て入れてみて追加で入ったのはお金だけだった。


 銅貨一枚と羊皮紙を残し後は取り出した。

 とりあえず、羊皮紙と銅貨で様子見だな。


 翌日。

 アイテムボックスの中の羊皮紙と銅貨は消え、ボールペンとやらが100本も入っていた。

 硬貨も二枚入っている。

 どうなっているんだこれ。

 訳分からんが、金貨の代わりにボールペンと硬貨は頂いておこう。

 また高値で買い取って貰えるはずだ。



Side:とある、お父さん


「おとーさーん。ボールペンどーこー」

「お父さんの机の一番大きい引き出しに入っているはずだ」


 ガタガタゴソゴソと何かを探す音が続く。

 しょうがない奴だな。

 一緒にさがしてやるか。


「ボールペン、見つかったか」

「綺麗なコインが二十枚あっただけだよ」

「コインなんて入れてたかな。見せてみなさい」


 息子が差し出したコインを手に取ると、大きさの割りにずっしりと重い。

 これ金貨って事はないよな。


「この一枚、貰っていいか?」


 私は急いで地金買取の店舗に行った。

 予感が的中、それは純金だった。

 誰が何の為に私のマンションの部屋に金貨を隠すんだ。

 分からない、幾ら考えても答えが出ない。

 買取をキャンセルし、金貨を全て警察に届けた。

 念の為わからない様に机のある部屋にカメラを設置する事にした。


 翌日。


「おとーさーん。又何か入っている」


 差し出された品物を前にまた頭を捻る。


 それは羊皮紙と銅貨だった。

 今時、羊皮紙なんて使っている人いるのか。

 文字が書いてあるが、知らない文字だ。

 書き方から納品書や注文書の様に見える。

 これは金貨の納品書なのだろうか。

 銅貨はおまけのサービス品なのか。


 そうだ、カメラをチェックしてみよう。

 驚く事にカメラには家族以外、映ってない。


 こんなの警察に相談したら、頭を疑われる。

 そうだボールペン持って行ったよな。

 百円ショップで買って大量に入れてみるか。

 それと色々な物を入れてみよう。


 翌日。

 ボールペンと一円玉と五円玉は消えていた。

 一緒に入れた釘、ピーラー、ソーサー、ヒマワリの種などは消えていない。

 こういうのはヨーロッパでは妖精だの魔女だのの仕業だとされているな。

 日本だと妖怪の仕業か。

 お祓い頼んだほうがいいのかな。


 文具とお金なら持って行くと気づいた私は、欲しい中世であったであろうインク瓶と羽根ペンの絵を紙に書いて入れた。

 一部は相手に伝わったようだ。

 石の文鎮と羽根ぼうきが引き出しに届いた。

 そして、一円硬貨の絵とボールペンとノートの絵も入っていた。


 少なくとも商売をしてくれるらしい。

 商売なら対等だから、少し安心した。

 一時は机を処分しようとも思ったが、祟りなんかにあう可能性もある。

 この物々交換をしばらく楽しんでみよう。


Side out


 夢を見た。

 アイテムボックスが知り合いの机の引き出し君に愚痴をこぼし、仕事を引き継いでもらう夢だ。

 腐った雑巾なんて入れられたら嫌だと言う引き出し君。

 アイテムボックスは今ある品物の系統だけ出し入れして後は拒否して良いからと宥める。

 海が見たくなったんで行って来ると言ってアイテムボックスが去って行ったところで目が覚めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る