第16話 禁令を司る少年3

「……目の充血も大分収まったな。ばれねえ程度に」


「……ありがとう。沼渕君」


「別に。まあ泣き崩れられるのは予想外すぎたけど……せいぜい命乞いくらいなものかと思ってた昨日の俺に忠告してえわ」


陣は明後日の方向を見て、零香は言葉に詰まる。


「う……ごめんなさい」


「まあ良いよ。それより、俺はあんたに2時間以上付き合った。今度はあんたが俺に付き合ってくれよ」


「付き合うって……どこに? 」


「ついてくれば分かるさ」


そう言われて陣に付いていった。因みにその頃の光輝は……


「残念だったね。陣には追い付けない。たまたまあった司馬先生に見つかって連れ戻されるとは……」


「どうして行かせてくれなかったんだ司馬先生! 」


もちろん司馬を責めるのはお門違いである。


「そりゃ、書類の提出期限遅れると面倒なことになるってあなた知ってますよね? 二階堂くん」


間髪入れずに、司馬が答える。脱走ではないがそれを目撃されてしまったため、書類が終わらせるまで司馬に監視されることになってしまった


「チッ」


「舌打ちしないで早く終わらせてください。そもそも月浪先生も忙しいんですよ? 月浪先生の手を煩わせないでください」


「やっぱ月浪教の信者だ。司馬先生」


「月浪先生には、先生をつけなさい。百歩譲って私は先生つけなくても良いので。そして、当たり前です。あの方は私とは格が違うのですから、尊敬するのは当たり前の事です。」


月浪の事になると司馬の目にはいつもより更に真面目になる。玲央は心の中で光輝に生暖かい目を送る。司馬は月浪の熱狂的すぎる信者と言っても過言ではないためできるだけ早い段階で話を終わらせるのが暗黙の了解となっていたのだ。しかし、光輝は司馬の話の長さをイマイチ理解しておらず、話は長くなっていくばかりだ。因みに友也は終わった瞬間に帰ったため光輝達とは入れ違いになったために、難を逃れたのである。


「……光輝。文句ばっかり言ってないで早く終わらせなよ」


これが自分へふりかかってくるであろう面倒と、光輝への同情を天秤にかけた玲央にとっての最大のフォローであった。その時タイミング良く玲が帰ってきた


「……司馬先生、光輝を捕まえてくれたんですね。ありがとうございます」


「おや、中村くん。月浪先生に呼ばれたのですか? 」


「……いえ、たまたま会っただけです。それより司馬先生。手に持ってるその書類、出さなくて良いんですか? 」


そういって玲は司馬の手にある書類を指す


「そうでした。すみませんが中村くん二階堂くんの事を任せても良いですか? この書類は、提出してこなければならないので」


「……はい。彼の最期の、仕事でしょ? 」


「ええ。うちのクラスもまた、寂しくなりますね。……いつも、中村くんには安心させられますね。それでは」


「……お疲れさまです。司馬先生」


「中村くんも、早く帰れるときは帰るんですよ。あなたのことは教師陣皆、心配してますから」


「ご心配どうも」


そして司馬は教室を出ていった。


「……光輝、司馬先生を捕まえるなよ。少なくとも今日は」


玲はため息をつきながら話す。


「わ、悪い。……今回は3組でか? 」


「ああ。1名報告が上がってきている。最近は安定してきたと思ったんだけどな」


「……こればっかりは、慣れないな」


「……慣れなくて良いさ。こんなこと」


教室内の雰囲気が重くなる。その沈黙を破ったのは玲だった。


「感傷に浸るのは、後だ。司馬先生の話は置いといて、明日精鋭科で会議するから」


玲央は珍しくパソコンから顔を上げる。


「明日? 随分急だね。会議って言っても今まで基本定例会議しかしてないのに」


「まあ、緊急案件って奴だな。全員参加だから遅刻厳禁な。光輝」


「何で名指しなんだよ! 」


「そりゃこの中で一番遅刻しそうだからだよ」


「良く分かってるじゃないか。玲央」


こうなったとき、光輝に味方はいなかった。

場所は変わり、陣達は町外れに来ていた。零香もここまで来たことはなく、流石にリンチかと思った。ついた先にはあらゆる所に石碑がそびえ立っていた。


「……ここは? 」


「慰霊碑さ。うちでは任務中に殉職していった奴ら全員の名前がここにある。ほら、あらゆる所に名前があるだろ? 」


零香は回りを見回す。確かに色々なところに名前がある


「他の学校は知らないが、うちでは全員がこれだ。それに例外はない。」


「ここにあるのは、育ってきた場所だから? 」


「それが1つ。もう1つの理由は、政府の人間は、誰かが死んだことに関心を持たないからだよ。俺らみたいな人間は死んだら書類上でしか報告されない。うえ政府も興味なさそうに印鑑押して終わりだからな。でも、俺らにとっては大切な仲間だったんだよ。だから、ここに生きていた証を残すために名前を残していってる」


陣は懐から石を取り出す。


「それは? 」


「アクアマリンだ。一般的なもので言えばパワーストーンって奴だな。基本的全員が1つは持ってるものだ」


「初めて聞いた……」


「あいつらこんなことも言ってなかったのかよ……。まあ、簡単に説明すると俺らの能力の威力を増幅させるものって認識で良いさ」


「それは沼渕君の? 」


「いや、俺の友人だった奴のさ。精鋭科ではなかったが、つい先日。殉職していった」


陣は悲歎ひたんを目に宿している。


「アクアマリンはそいつの相棒だった。これがこいつの最期の仕事さ。"さあ、主の名前を刻め。最期の仕事だアクアマリン"」


陣がそう言うとアクアマリンは宙に浮き、石碑に取り込まれる。取り込まれた場所には新たに名前が刻まれていた。


「これで、浮かばれると良いんだけどな」


「……浮かばれるよ。これだけ思ってくれる友人がいるんだもん」


陣は思わず零香の方を見る。少し間をおいてから答えた。


「……ありがとな」


「付き合ってほしかったのは、ここの事? 」


「ああ。本来は連れてくる気はなかったけど、予定変更さ。山里零香。お前に戦闘能力を期待した俺がバカだったのが2時間前に証明されてしまった。戦闘を挑んだ俺がバカらしく思えたほどに」


「ご期待に添えず申し訳ないです……」


零香は分かってはいたことだけど心に刺さる。陣はまっすぐ零香を見る。


「だから、俺はお前に別の事を求めようと思う。」


「……何、かな? 私にできることなら。やれることなら」


「言ったな? 」


独特な雰囲気が流れる











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